ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

大丈夫か日本財政 その6 財政破たん派、どこが間違っているのか 5

2016年04月07日 | 大丈夫か日本財政

  日本以外の世界では4月3日に部分的に公表された「パナマ文書」が連日トップニュースで伝えられ、名前を上げられた政治家やセレブが火消しにやっきになっています。アイスランドではすでに首相が政権を投げ出しました。日本人や日本企業の名前も上がっていますが、日本では大きなスキャンダル騒ぎにはなっていません。5月にはフルの開示が出るようですので、高みの見物と行きましょう。

  ただ私はこうしたことが世界を大きく変えるとは思っていません。あっても各国の税制がまともな国際スタンダードに収斂していくくらいでしょう。政治家やセレブ個人には大きな影響を与えるでしょうが、金融市場がそれによって大きな悪影響を受けるとも思っていないことをお伝えしておきます。今名前が上がっている大物は自由主義・民主主義にとって障害になっている「さもありなん」という名前がほとんどですしね。


  一方株安と円高が昂進しています。株安の主因は先ごろ私が指摘したように、GPIFのお化粧買いにもかかわらず、海外投資家の日本離れがそれにまさっていることでしょう。

  しこさんから「売ったお金はどこに行ったのか」という質問を受けました。円からドルなどに変換しているなら円安要因だし、円にとどまっているなら将来の円安の要因になるはずです。日本の債券に回ることはマイナス金利からありえないでしょうし、株の投資家と債券の投資家は違うこともあります。

  私には短期的に海外投資家の資金を追う手立てがないので、的確な回答はできません。しかし答の一つのヒントは、過去の動きをみることです。それはアベノミクス導入以来の円安と株高です。海外からの株式投資で株高になった一方で、円安が昂進しました。つまり株を買うための円買いが為替レートに影響を及ぼさずに、株買いと円売りが並行したわけです。だとすると今回も株売りが直接為替レートに大きな影響を与えない可能性もありえるということです。

  海外勢の日本株投資は現物を買っていて、売る時も現物を売っているというのが東証の部門別売買動向で見て取れます。しかし為替売買は現物以外に様々な手口があり、それらを駆使して相場への影響を少なくする余地はあります。

   答えになっているような、なっていないようなですが、私が言えることはこの程度です。

 

  さて財政問題です。私は以前から経済の体温計は金利、血圧計は株式相場だと申し上げてきました。体温計はクロちゃんによって壊されてしまい機能しなくなっていますが、血圧計は壊れていません。水鳥の羽音にも敏感に反応する血圧計ですが、株式はあまりにも変動幅が大きく保有リスクが高すぎるので、さすがの凶暴なるクロちゃんも「俺が全部買ってやる」とは言えず、自分の言うことをよく聞くような会社の多く入ったETFだけは今後も買うぞと言っています。例えば賃上げをし、設備投資をすると思われる企業のETF購入枠を3千億円ほど昨年末に設定しています。それによる買いが初めて4月4日に実行されたそうです。金額はわずか12億円。買ったうちに入るかは疑問です。

  血圧はこのところ激しく低下していますので、どうも株はヤバいかもということになっています。しかし体温は計りが壊れていても、低体温だから問題ないという雰囲気です。低体温症は人間だと死につながります。


  前回は日銀が国債の爆食により、日本財政のリスクを腹いっぱい抱えてしまっているというところまでお話ししました。

  それに関してinvest shiftさんから、「国債の持ち主が銀行などから日銀に移っても、すぐ破たんにはつながらない。理由は銀行などがまだ買い余力を残しているから。破綻するとしてもまだまだ先なのではないかなと思っています。」という趣旨のコメントをいただきました。

   もちろんすぐにではないと思います。しかし大量の国債を日銀が保有することは決して健全ではない。その問題点を再度整理します。従来から言われていることは、

1. 赤字財政のファイナンスであり、財政支出に歯止めがなくなり、通貨供給過多からやがてハイパーインフレにつながるハズ

2. リスクを察知した格付け会社がダウングレードすると国と通貨の信用力が低下し、投資家が国債投資を回避するため金利が上昇ハズ

  今回はそこに日銀が現われ金利を食べてしまい、金利上昇どころか低下しています。1.2.の状況が出現せず金利が低下しているのは、今一つ理由があると私は考えています。それは、

①  日本と世界、ともにカネ余り状況にあることが一つ

②  アメリカやユーロッパで中央銀行が自らの国債を大量に買い入れていてもインフレにつながらないため、それが先進国では当たり前の政策として世界的にリスクと認知されづらくなっている

  つまり欧米よりはるかに累積債務の大きな日本でも、中央銀行による財政ファイナンスが、禁じ手とみなされないで済んでいるということです。

  もし欧米で超緩和策がとられることなく、日本単独で超緩和策が出現したとすると、債務比率の大きさから非常に危険であるとの警鐘がもっと早くから鳴らされることになったと思います。

  他にもう一つ、日本の特殊要因があります。それは通常だと出現するはずのことが出現していないためです。それは、

3. リスクを感じた投資家が資金を国外に逃避させる行動に出るハズ

そのため通貨価値が下落し、国債価格も下落するハズなのですが、日本ではなかなか起こりそうもありません。

  その理由は、日本人の多くが国際標準の投資リテラシーを持っていないためと思われます。国際標準の投資リテラシーとは、資産構成を自国通貨建てだけでなく、外貨建て資産を分け隔てなく組み込むことです。

  ただし、普通のアメリカ人の多くは例外で、ドル以外の資産はあまり持ちません。

  そうした国際分散投資をしない日本人の投資行動をよいことに、政府は毎年史上最大の予算を組み続け、国債発行により累積債務を増やし続けています。

つづく

コメント (23)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする