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大丈夫か日本財政 その6 財政破たん派、どこが間違っているのか 4

2016年04月04日 | 大丈夫か日本財政

   このところ日本の株価がひどくさえませんので、私がどうみているか、本題の前にちょっと紹介します。

  今年に入って1月、2月と大きく下落した株価はその後持ち直す兆しがあったのですが、3月末にかけて売られ、先週末は600円の暴落でした。今日も少し安く終わっていますが、NYと比較するため先週末で切ってみましょう。日経平均の今年の値動きとNYダウの動きを比較します。

       1月4日  4月1日  対比

日経平均   18,818      16,164     ▲14%

NYダウ         17,405       17,792 +2%

   ドルと円で単位は違いますが、年初は日経平均のほうが1,400ポイントほど高かった。それが現在は逆転し、NYのほうが1,600ポイントも高くなっています。両者の動きは3,000ポイントも差が付いたことになります。

  日経平均の1月からの下げを主導したのは明らかに海外投資家です。売り越し額はなんと5兆円です。月別には、

1月;1兆円  2月;2兆円  3月;2兆円   1~3月合計5兆円

  それに対して明らかに買い向かったのは信託銀行で、額は約2兆円です。その他の投資主体、個人や投信・銀行などはばらばらで、まとまった額にはなっていません。

  信託銀行と一口に言いますが彼ら自身の買いではなく、その中身は我々の年金を運用するGPIFと日銀などの公的資金が大半だと言われています。つまり年度末にかけて公的資金がお化粧買いして株価を保とうとしたが、海外投資家の売りには勝てなかった、というのが実態でしょう。

    わずか3か月で5兆円を売ったということは、海外投資家の日本株に対する投資スタンスが大きく変化したとみるべきです。NYの株価が戻したのに、日本株が沈んでいった原因はここにありそうです。

  その間に何があったか。

  ビッグ・イベントはクロちゃんのマイナス金利導入でした。海外投資家は日銀も遂に万策尽きたと見ているのでしょう。これまでアベノミクスを信じて3年ほど買い進み、円安により企業業績までは回復したが、結局第3の矢・成長戦略は中身がなく、規制撤廃などできなかったし、これからもダメだと見限ったのでしょう。以上、専門家でも何でもない私の見方でした。

 

   さて、本題に戻します。前回の終わりに私は、

「中央銀行が国債金利を強引にでも低下させれば、本当に問題はないのでしょうか。そんなことは絶対にありません。きっぱりと言っておきます。」と結んでいます。

  今回はちょっと重いテーマですが、日銀がこうしたことを続けていて本当に問題はないのか。あるとしたらいったい何が問題なのか。それを私なりに解明します。

  先月、「マイナスでも運用益、何故?」というテーマでその理由を解説しました。その冒頭に、そもそも金利とは何か、という話を差し上げました。フィックストインカムの専門家がみる金利とは、「投資のリターンであり、一方でリスクの象徴でもある」と述べました。これは普遍的に言えることです。

  日本経済の場合は残念ながら成長力をすでに失っていますので、低金利は低成長の証で、その結果リターンも低下しています。そして成長力のない経済に無理に財政出動というカンフル剤を打ち続けた結果、じわじわと財政リスクを高めてしまいました。本来であればそのリスクが金利上昇を招いてもおかしくないはずです。

   ところがちょうど3年前にクロちゃんが日銀総裁に就任して国債の爆食を開始。金利変動という経済活動の体温計を壊してしまいました。それが、超低金利になり、低いままに張り付いてしまった理由です。就任してからすぐに異次元の緩和策で主に短期国債を買い、短期金利が低下。しかし短期の国債が枯渇しはじめたため、発行量の多い中期から長期の国債に範囲を拡げ、さらにバズーカ2号を発射し買い入れ量を莫大に増加させました。

   それでもデフレ脱却は全く奏功せず、今年になって日銀当座預金への付利をマイナスにするところにまで至っています。すると時を経ずして長期の10年物金利までマイナス領域に達してしまいました。緩和策が奏功しないと、かえって意地になって凶暴化する恐ろしい人間が一国の中央銀行を率いている結果です。

   長期金利を振り返ります。10年物金利は彼が就任してしばらくは1%弱で推移し、0.9%台にはなっても1%には達していません。長期国債爆食前の1%弱を市場まかせの金利レベルだと想定すると、そこからマイナスにまで至ったと言うことは、爆食で1%程度強引に金利を下げたことになります。

   じゃ、リスクの象徴であるはずの金利がマイナスになったということは、リスクがなくなったのでしょうか?

  そうではありませんよね。金利に代表される日本財政のリスクは日銀が食べてしまったのです。ということは、日本国債を巡るリスクは、すべて日銀のお腹の中に入ってしまったということで、まったくもって恐ろしいことになっているのです。決してなくなってしまったわけではありません。

   これがフィックストインカムの専門家から見た金利リスクの現状です。

つづく

コメント (12)
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