ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

マイナス金利導入と前日銀審議委員の告白

2016年04月19日 | マイナス金利導入をどうみるか

   昨日の日経平均は驚くほど大きく下げ、今日は一転して大きく上昇。私の言う血圧計が血圧計らしい動きになっています。

  週末の一番の悪材料は、主要石油輸出国の会議にイランが出席せず、増産を抑制する合意ができず原油価格が下落したことと、熊本を中心とする地震によりサプライチェーンに支障が出ることだったようです。しかし昨日のNYの株価はアメリカが産油国であるにも関わらず原油価格下落に反応せず堅調で、日本株の暴落なども問題にしていませんでした。このためどうやら日本株の暴落は過剰反応だったとの反省から、今日の暴騰となったようです。

   私は何度も「原油価格の下落は石油消費国にとって懸念材料などではなく、喜ぶべきことだ」と言い続けています。アメリカはそれに気づいているようです。原油価格の下落を懸念しているのは株屋さんのアナリスト達で、彼らの目先の相場見通しが自ら株式相場を崩していると見ています。

 

   さて、今回はマイナス金利に関する日銀の考え方についてのアップデートです。

  マイナス金利の導入に反対した日銀審議委員が3月末に任期満了を迎えました。国際金融に詳しい白井さゆり氏です。慶応大学大学院を出て海外留学を経てIMFのエコノミストなどを経験し、慶応大学に教授として戻り、2011年に白川総裁のもとで日銀の審議委員に就任した方です。審議委員は日銀の政策決定会合で投票権を持つ重要な役割を担っています。

  3月に退任したばかりですが、先週4月14日にテレビ東京のモーニングサテライトに生出演し、マイナス金利導入に関してインタビューに応えていました。日銀の籍からはずれ、ある程度自由な立場でものが言えるようになったところでどのような発言をするのか、私は興味津々でインタビューを聞いていました。インタビュアーは最も重要なポイントにズバリと切り込んでいました。その質疑応答の要旨は以下のとおりです。

  マイナス金利導入に反対した理由は?  ・・・以下は私の解説です。

①   国債大量購入による緩和策が奏功していないと市場が判断するリスク・・・つまり量的緩和がダメなので、また低金利を強めることにした、ととらえられてしまう

②   金融機関に混乱が生じるリスク・・・国債の流動性が低下し、市場が混乱。銀行などの収益機会が国債を日銀に売る黒田プットに偏ってしまっている。つまり収益を金利収入や通常の債券売買に頼れなくなってしまった

  さらに白井氏が言っていたのは、

「本来なら当座預金金利は超短期金利の代表の一つであるため、そこにマイナス金利を導入したら短期金利が下がり、長期金利には大きく影響を与えずイールド・カーブがスティープに(傾斜がきつく)なるはずだと思っていたが、そうはならず長期金利が短期金利以上に下がり、そのことも金融機関の収益を奪うことになっている」という指摘でした。

こうした理由から、白井氏はマイナス金利のこのタイミングでの導入は成功とは思っていないようです。

インタビュアーがさらに、「導入後に市場が株安円高に動いたのは効果がなかったからではないか」と聞くと、イエスともノーとも明確には答えませんでしたが、以下のように言っています。

・銀行がマイナス金利に慣れるのはもうしばらくかかる

・国債の大量購入の有効性をしっかりと判断すべき

・出口はFRBと同じくまずはテーパリング、つまり量的緩和を停止し、その後に金利を上げる順序とすべき

・いったん導入してしまったマイナス金利を取り下げることはできない。何故ならそれは金融引き締めへの転換と判断されてしまうから

  これらの意味するところを林が勝手に判断すると、「マイナス金利導入以降の市場の混乱はまさにマイナス金利導入によるものだ。本当は量的緩和だけでもよかった」ということだと思います。

  しかし日銀政策を表立って批判することは日銀の権威を傷つけ、これまでの審議委員としても実績を自己否定してしまうため、婉曲な言い回しでの批判にならざるを得ないのでしょう。

  さて、私がもう一つ注目したのはクロちゃんのことです。同じ日に日銀総裁クロちゃんは、G20(蔵相・中銀総裁会議)参加のためアメリカを訪れていて、NYのコロンビア大学において講演を行っています。司会はコロンビア大学教授の伊藤隆俊氏でした。講演後の質問で「市場の混乱を招いたマイナス金利導入は間違いだったのではないか?」と問いかけられると、「そんなことはない。もしマイナス金利を導入しなかったら、もっと円高・株安になっていただろう」と成果を強調しました。司会は最近かなり政府寄りになってしまった伊藤隆俊氏のため、それ以上の追及はしませんでした。

   しかしちょっと待てよ、クロちゃん。あれでマイナス金利が奏功したと言い張るということは、それまでの日銀政策だともっとひどいことになっていたはず、つまり効果がなかったことを自ら認め、別の手を繰り出したんですよね、クロちゃん!

   しかも彼はいつものように「必要があればさらなるマイナス金利も躊躇なく実行する」と言っています。負けを認めない凶暴なるクロちゃんの凶暴さが、大事な金利という体温計を市場から奪い、流動性も奪っていくことに、徐々にちまたのアナリスト連中も危うさを感じ始めているようです。

   初めは株さえ上がれば文句を言わなかった従順なアナリストも、さすがに日銀政策のやり過ぎが株価下落につながったことで、やっと目を覚まし始めたのかもしれません。

   株価てこ入れにしか目が向いていないおねだり君アナリスト達は、日銀の量的緩和策やマイナス金利の限界に気が付きはじめ、次なる矛先をさがしはじめています。それはまたゾロ財政出動です。

   実態面でGDPのマイナス成長に熊本震災の影響が加わると、財政出動論議が本格化するに違いありません。そこに選挙もからんだ消費増税先送りがかぶれば、格付け会社に格好の格下げ材料を与えることになります。

  かつてバズーカ2号や、今回のマイナス金利導入に反対した白井審議委員が3月末で退任し、代わって大政翼賛会側のトヨタ出身者が審議委員になっています。

   そしてつい先ほど、6月に退任予定でこれまたマイナス金利に反対票を入れた石田氏に代わり、おねだり君代表、新生銀行の執行役員で為替アナリストの政井氏がノミネートされたというニュースが流れました。

   これで9人中4人いた邪魔者もわずか2人となり、今後は薄氷の票決もなく日銀の政策決定会合はクロちゃんの意のままになります。中央銀行の独立性などクソくらえと、財政出動を支えるキャッシュマシーンに成り下がった日銀の恐ろしさだけが増すことになりました。

以上

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする