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アメリカの金融市場について その1

2015年11月16日 | アメリカの金融市場

  パリのテロに対しては、言葉がありません。ただただ哀悼の意を表するのみです。

  あの日息子がバルセロナ出張の帰りにパリのシャルル・ドゴール空港でトランジットしたのですが、テロは飛行機が飛び立った直後の出来事だったそうです。私としては大好きな街の一つであるパリが危険地帯になってしまうのはとても残念です。

  先ほど7-9月期の日本のGDP速報が出ました。なんと2期連続のマイナス、それもマイナス0.8%と大きなマイナス数字が出ています。2期連続のマイナスとは、定義上の不況入りです。大丈夫かニッポン?


  さて、今回からアメリカに関してです。このブログをご覧いただいているみなさんの中で、米国債への投資のタイミングを計っている方はとても大勢いらっしゃるようです。そこで今回から何度かに分けて私がアメリカ金利や金融市場をどう見ているかについて書いていきたいと思います。

  金利上昇を期待されている方の多くは、12月のFOMCで利上げがありそうなので、その場合に長期金利はどうなるかの見通しを知りたいのだと思います。しかしいつも申し上げますが、金利見通しは株価や為替の見通しと同じ様簡単なものではないし、私の見通しが当たるものではありません(笑)。FRBによる政策金利の上昇が見込まれる時でも予測は難しいので、見通しについては参考程度に聞いておいてください。

  まずはお勉強から。

上の文章で私は、

>FRBによる政策金利の上昇が見込まれる時でも予測は難しい

と、書きました。

「えっ、利上げがあったら長期金利も一緒に上がるんじゃないの?」

こう疑問に思われる方が多いと思いますが、そうでもありません。政策金利と長期金利の関係の前に、そもそもFRBによる利上げって何の金利を上げるんでしょうか。答えはフェッド・ファンド・レートです。

「フェッド・ファンド・レートって何?」

  中央銀行の行う政策金利の上げ下げは、以前は公定歩合で行われていました。公定歩合とは中央銀行が市中銀行に貸し出す翌日物金利です。翌日物とは丸一日で返済される超短期の借入です。でも今は日本でもアメリカでも公定歩合は使われていない飾り物です。世の中が資金不足から解放され、中央銀行からオカネを借りなくてもよくなったからです。じゃ、金利政策には何を使うのか。銀行間の貸出金利を使うのです。

「えっ、じゃあ中央銀行はどうやって銀行間の金利を調節するの?」

銀行間のことですから、FRBは資金量の調節で間接的にしか調節できません。

「ということは決めたとおりピッタリのレートになるとは限らないの?」

そうです。毎日少しずつ目標よりずれたりします。現在の政策金利はあくまで「誘導目標」であって、市中銀行間の金利を直接決めるものではありません。日本でもアメリカでも同じです。

「じゃ、政策金利と長期金利の関係は?」

もちろんないことはないのですが、直接には関係ありません。お互いに背景となる経済実態を見てはいるものの、視点などが異なります。そして短期金利の誘導目標は政策的に決めますが、長期金利は長期債の需給によって決まる完全な自由市場金利だからです。ですので、短期の政策金利を上げたからといって、長期金利は必ず連動して上がるものとは限りません。

  これだけ聞いただけでも、長期金利の予想が単純なものではなさそうなことはご理解いただけると思います。

  みなさんもお気づきのように、このところ長期金利の代表である10年物金利がFRBの利上げを前にすでにじわりと上昇しています。ちょうど1か月前、10月14日に直近のボトム1.97%をつけたものが、現在は2.27%程度です。その間に為替は118.82から122.62へと円安に動き、セオリー通りにドル金利高=ドル高です。

  市場環境としてはこの1か月の間に、アメリカの雇用統計が非常に強く出ました。雇用の増加は市場の予想をはるかに上回る27万人の増加でした。そのため12月の利上げが既成事実になるほどです。それを受けて多くの地区連銀総裁が、「利上げするぞ」という発言を行っています。しかしこれとて絶対とまでは言えません。

  私はいつも中央銀行の政策金利は基本的には2つの要素で動かすものだと言っていました。それは「物価と雇用」です。その他に見るものがいくらあっても、基本はこの二つです。

  アメリカの現状は雇用は非常に強いのですが、物価はまだ強いとはいえません。失業率がほぼ完全雇用と言えるレベルなので、普通なら賃金の上昇が伴うのですが、それがプラスではあっても物価をぐいぐい押し上げるまでに至っていません。

  じゃ、中央銀行にとって物価と雇用のどちらがより大事なのでしょうか。それは物価です。中央銀行の役割は通貨の安定が第一であって、経済成長に責を負うものではないからです。日本は日銀と政府が政策協定を結んでいますが、それはあくまで異例のことです。アメリカやヨーロッパのQEも異例なのです。

  ポール・ボルカ―というかつてのFRB議長がいます。彼は79年代から議長をしていた人ですが、79年の第2次オイルショック後に失業率が10%にもなっている時に、インフレを抑えるために大幅な利上げをしました。その時のフェッド・ファンド・レートはなんと20%にもなっています。彼は歴史に残るインフレ・ファイターで、インフレを収束させました。

  究極の事態に至った場合、雇用を捨てても物価を取るのが通貨の番人なのです。

コメント (4)
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