前回は世界の有力国や東南アジアの国々が対中政策を変えつつあるということを、いくつかの例を挙げて紹介しました。それが世界2位の規模となった中国の経済的影響力の大きさに対する各国のリアクションです。こうした動きを注意深く見ておかないと、いつの間にか日本だけが取り残されることになるので、要注意です。
一方中国経済の中身は大変悩ましい段階に達しています。それは以下の3つの点が象徴しています。
①中所得国の罠
②過剰な設備投資
③不動産投資のツケ
④政府債務問題
まず一人当たり個人所得の分析から中所得国の罠を見てみましょう。
「中所得国の罠」を一般的定義で説明しますと、 資源国であれば資源輸出に頼り、人口が多ければ低賃金労働に頼って輸出が伸びて所得が上がる。それにより低所得国から中所得国にはなれるが、その後は例えば中国であれば賃金が上昇してしまうため低賃金に頼ることができなくなる。次のステージに進むには自前のイノベーションや新商品を作り出す必要がでてくる。それが簡単にはできないため、多くの国は先進国になれずに中所得国のままとどまる。それが中所得国の罠です。
東アジアでは一人当たりの国民所得がすでに日本を抜き去ったシンガポールや香港を筆頭に、台湾、韓国など罠から抜け出て一人当たりの所得では先進国グループに入った国々があります。14年の国別一人当たり国民所得と世界ランキングは、
シンガポール5万6千ドル(9位)
香港4万ドル(24位)
日本3万6千ドル(27位)
韓国2万8千ドル(31位)
台湾2万3千ドル(37位)
中国7,600ドル(80位)
かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だった日本も、今は世界ランキングで27位まで凋落しています。シンガポールは9位とベストテン入りしました。みなさんはこれほどまでの日本凋落の事実に意外な感じを受けるかもしれませんが、これは所得が伸びないことと、円がドルに対して5割も価値を下げた結果です。私がブログで何度も「円安は国民の富を毀損している」と言っていた結果が、こうして所得ランキングにも如実に表れているのです。円安を勝ち誇って喜んでいる政府・日銀・財界は目が国内にしか向いていないため、こうした比較感を持ち合わせません。このブログの読者のみなさんはしっかりと世界を見つめ、円だけにこだわらずドルヘッジをして、政府・日銀・財界をせせら笑ってあげましょう(笑)。
横道に逸れました。所得レベルがある程度上昇し、低賃金に頼れなくなった中国は1万ドルの壁に阻まれつつあると見てよいかもしれません。2ケタの超高度成長から、ニューノーマル(新常態)と称した7%、そして今回の新5カ年計画では6.5%を最低限度とすると表明しました。
果たしてその実現可能性はどうか、クラッシュはないのか。
次に「過剰設備問題」を見ておきます。
私は無傷でのソフトランディングは無理だと思っています。すでに不動産・インフラを中心とした過剰投資のつけは、鉄鋼生産など設備の稼働率低下を招いています。
現在の鉄鉱石資源価格の低迷とその製品である粗鋼価格の低迷は、中国の粗鋼生産設備の過剰が主因です。どの程度過剰なのかを見てみます。かつて日本の鉄鋼産業が世界を制覇する勢いだった頃、日本の粗鋼生産能力は1億6千万トン程度でした。現在は1億トン強です。今年の世界の粗鋼の需給は、需要が17億トンに対して生産能力が23億トンと、6億トンもの過剰設備を抱えている状態です。中国の生産能力は11億トン程度で、過剰状態は日本と中国が生産設備の半分を一度に廃棄しない限り継続が見込まれます。もちろんそんなことはできませんから、粗鋼価格の低迷は世界的にもかなり長期に渡る設備の過剰が予想されることを示しています。中国は一帯一路の新シルクロードを建設するとぶち上げていますが、それが過剰な粗鋼生産能力のはけ口であることはミエミエです。
資源を爆食し、鉄鋼製品を爆食してきたのは中国であり、次に控えるのはやはり人口が大きく需要爆発が見込まれているインドやブラジルです。しかしそうした国々はいずれも現在は成長率が低下し、中所得国の罠にはまるか今後はまりそうな段階に至っていますので、過剰設備の問題は当分回避するのは難しい状況が続きそうです。
次回は中国問題の最終回として不動産問題と政府債務問題についてです。