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中国問題、アップデート その3

2015年11月12日 | 中国問題

  中国問題の最終回は不動産と政府債務問題です。最後ということで、ちょっと長文であること、ご勘弁を。

  このところ発表される中国の経済指標は、GDP統計より実態経済が悪いことを示すものが多くなっています。例えば国内需要の鏡である輸入額が、20%ものマイナスになっています。株式や不動産市場といった資産価格の低迷も足を引っ張る要因だと思われます。

  前回私は中国の今後にかかわる重要な問題点として3点を掲げると書きながら、実際には以下の4点を掲げました。

中所得国の罠

過剰な設備投資

不動産投資のツケ

政府債務問題

  説明不足のままで申し訳ありませんでしたが、③と④は実は同根であるため、まとめれば3点なのです。つまり不動産投資バブルの大元には地方政府が深く関わっていて、そのツケが政府全体の債務に影響を与える可能性が大きいため、まとめれば3点なのです。

  そのことを、もう少し順を追って解説します。

  公表されている最近の中国の中央政府と地方政府支出の割合は、中央2割、地方8割と、かなり地方政府の比率が大きくなっています。元々はそれほどひどい偏りはなかったのですが、リーマンショック後に行われた4兆元にものぼる大規模な政府によるテコ入れ策のほとんどが、地方政府レベルの施策だったためバランスを崩したのです。

  そしてどこの国でも同じですが、およそ政府の支出というものは、いったん増加した後に低下させるのは非常に困難です。それは日本でもアメリカでも、その他の国でも同じです。中国でも高い支出レベルが継続されています。

  ではその裏付けとなる地方政府の収入はどなっているかと申しますと、もともとの税収は少ないため、銀行借り入れとシャドウ・バンキングに頼っています。農民から収奪した土地に、資金を調達して住宅やオフィスなどの上物を作って販売する。その過程で地方政府は融資平台というファイナンス会社を作り、そこが高利で資金調達し、投資主体に貸し出す。高利でも物件が売れていれば問題なく回るが、売れなくなるとたちまち高利のパンチが効いてくる。その高利商品がこの1・2年でデフォルトし始めたいわゆる理財商品や信託商品です。不動産の値上がりが止まったとたん販売が立ちゆかなくなり、鬼城と呼ばれるゴーストタウンが無数に出現しています。

  不動産神話はいったん崩壊すると、再生するには長期間かかります。それは日本を見ればあきらかです。じゃ何故アメリカはサブプライムローンを原因とするリーマンショックから短時間で立ち直れたのか。アメリカには日本のような不動産神話はないからです。アメリカの土地は無限であることを誰もが認識し、無限に値上がりすることなどありえないと思いながら不動産投資をしています。不動産投資は常に利回りの変数で、利回りが低下すると不動産投資は抑制されるので、過剰の度合いが日本や中国などとは比べ物にならないくらい低いレベルの過剰に終わるのです。

  中国は日本同様、不動産投資の尺度が利回りではなく値上が益だったため、買いすぎによる利回りの低下という黄色信号・赤信号を無視する投資が続けられ過剰を招いています。

  このところ中国人が日本の不動産、特に東京中心部の高額物件に投資をしています。それが東京の不動産価格を押し上げているので心配する向きがありますが、心配には及びません。どんどん売ってカネを落としてもらえばいいのです。私がいつも中国人の不動産や水源への投資に対して言うように、そんなものは持って帰れません。かつてマンハッタンを買い占めた日本人同様、そのうちホウホウの体で退散します。

  我々が注意すべきは、オフィスや住宅にしろホテルにしろ、調子に乗って作り過ぎれば必ずとがめが出るということです。中国人旅行客のブームがいつまでも続くと踏んでホテルを作り過ぎれば、必ずとがめが来ます。作る決断と竣工には長い時差があるのです。爆買いで浮き立つ小売もしかりです。

  ということで、調子に乗って作り過ぎた中国の不動産はクラッシュなしでやりすごすことはできません。中国政府は株式市場のクラッシュすら防げなかったことから、より巨大な不動産市場のクラッシュを防げるなどというオールマイティ幻想はもはや抱いていないでしょう。しかも投資主体は株式投資とは違い過剰債務を抱えているため、不動産市場の崩壊は金融システム全体への影響が大であることにも注意する必要があります。

  さて、以上中国の不動産投資と地方政府の関わりを見てきたのですが、次に中央政府と地方政府全体の債務がどの程度かを見てみましょう。今年8月に政府系シンクタンク中国社会科学院による13年末の調査結果が発表されました。大本営発表ではありますが、他によい参考資料がないので、その内容を産経新聞ニュースから引用します。

引用

中国政府の債務残高が2013年末に56兆5千億元(約1130兆円)に達し、前年比で約20%増えていた。債務残高の内訳は、国債など政府の有利子負債が20兆7千億元、国有金融機関の不良債権が3兆8千億元など。 中国の国内総生産(GDP)は13年は名目で56兆8845億元で、債務残高とほぼ同額。ただ、同院が指摘した地方政府分の債務残高は別の調査で、10年末の約10兆元から14年末までで約3倍の30兆2800億元に膨れ上がった。このうち、どこまでが今回の政府債務に反映されているかは不明だ。

引用終わり

  この不明部分がほとんど含まれているとする意見が多く、その後増えていてもGDPも増えるので、債務のGDP比率は大きく変わらず、100%プラスアルファ程度だと思われます。

  問題は地方政府への銀行融資と融資平台の債務が本格的にデフォルトを始めたときです。すると銀行が破綻し、投資商品に投資していた個人などが大きな影響を受けることになるのが直接のインパクトです。そして不動産投資がパタッと止まることの影響が経済全体にはより重大なインパクトを及ぼすことになります。しかし私は地方政府のデフォルトや銀行システム崩壊をそのままにはできないため、債務は結局中央政府が肩代わりをすることになると見ています。日本と違い中国の中央政府の債務は経済規模に比べて小さいので、救済がある程度可能なのです。

  しかし中国経済はこれまで製造業の投資と不動産投資が主体で伸びてきたため、両者のスローダウンの影響は非常に大きいものがあることは確かです。

  その場合、世界経済へのインパクトはどうか。中国不動産に直接海外からの投資はないので、経済全体が大きく低迷しない限り世界に大激震が走るまでにはなりそうもなく、現在進行中の製造業からサービス産業への移行が救いにもなると思われます。

  アメリカ発のリーマンショックとの最大の差は、世界経済の安定です。現在、アメリカ経済は健全だし、ヨーロッパ経済もさほど悪くない。日本もそこそことなれば、中国ショックはあったとしても吸収可能な範囲だと思われます。今後の世界は中国という強力なエンジンを一つ失うことにはなるでしょうが、大きく足を引っ張られるほどのことはないでしょう。

  ということで「中国の不動産市場の崩壊と地方政府債務デフォルトがあって経済成長が止まっても、ただちに世界経済が大ショックに見舞われることはない」というのが私の結論です。

  ただし中国の政治体制崩壊と同時に起こらなければ、という前提があることは以前と同様です。

おわり

  お待たせしましたが、次回からはアメリカの金融市場についてです。

コメント (11)
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