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安部政権が実現したら

2012年11月25日 | ニュース・コメント
  このところ次期政権の首相有力候補とみなされている安部氏の政策構想に金融市場が反応し、株高・円安になっています。この政策に対してコメントをさせていただきます。

 安部氏のポイントは

① インフレ・ターゲットを2-3%に引き上げる。
② そのためには無制限の金融緩和を行い、その一環で建設国債を日銀に直接引き受けさせる
③ 日銀当座預金にマイナス金利を導入する
④ 日銀と政府は法的拘束力を持つ政策協定を結び、政策実行の責任を取らせる。合わせて日銀法を改正する


これらに対して私は反論を用意していたのですが、同じ趣旨で日銀の白川総裁が以下のコメントを発表しましたので、総裁におまかせします(笑)

① 目標3%など現実的ではないし、国民は単なる物価上昇を望んでいるのではない
② 国債引き受けは歯止めがきかなくなり実体経済にも悪影響が出る
③ マイナス金利は預金から現金に大きなシフトが起こり混乱が生じる
④ 中央銀行の独立性は国際的にも確立され尊重されるべき


  この4つのポイントについては、私は日銀総裁と全く同意見です。フィナンシャル・タイムズなども社説で同じ意見を表明しその中で「日銀はすでに世界の中央銀行の中で最も独立性に問題が生じており、これ以上の国債引受は財政状況の悪化を助長することになる」とまで言っています。

  では市場の反応、株高・円安をどうみるか。
あきらかに「はしゃぎすぎ」です。といってもたった株が500円とドル3円の話ですが、私はもうすぐはげ落ちるとみています。

  「株・為替ははしゃぎ過ぎ」のもう一つの根拠は、債券市場は反応していないからです。本来なら売られて当然なのに、お話にならないので、無視しているのです(笑)。

  安部氏の政策は奏功するか可能性を見てみましょう。

  日銀はすでに10年以上にわたり緩和策を取り続けていますが、成果は上がっていません。ゼロ金利政策など10年やっても全く成果は出ていないのです。理由は、市場や銀行に資金をいくら供給しても日銀の当座預金に還流するだけで、企業が借入を増加させないからです。エレクトロニクス産業の凋落ぶりを見れば明らかですが、新規の設備投資どころではないのです。重厚長大産業も合併につぐ合併を重ね、過剰設備はむしろ廃棄する方向が継続していますが、依然として需給ギャップの大きさがデフレの元凶として立ちはだかっています。企業投資拡大への呼び水にはなりえません。


  では、個人は日銀の資金供給に反応するか。全くしないし、むしろ不安を募らせています。企業が存続を賭けて身を縮める中で、雇用者・失業者・リタイア世代を含め、誰が無駄使いをするでしょうか。そして最も将来を懸念しているのは若者世代です。賃金の低下に加え正規雇用比率の低下に怯え、親の世代のツケが回るのは確実だからです。消費の拡大などありえません。

  それに対して安部氏は公共事業を拡大して政府が無駄遣いをしてあげる(笑)、と言い始めていますが、これはいつか来た道で、借金を増やしておしまいです。もう公共事業が経済の活況の呼び水にならないのは誰もが知っています。古い自民党によるゼネコン集票マシンの再稼働など誰も望んでいません。経団連会長までが「国債の日銀引受で公共事業をするのはやめろ。そんなことで競争力の回復などありえない」と言っているのです。

それでもかまわずに①から④が実行されカネをばらまいたら日本は変わるか

・カネを撒いても消費者は使わないし、国の借金増加にますます警戒する
・企業競争力はバラマキで回復などしない
・円安が進んでも、日本にアップルを生むわけではない
・日銀による国債引き受けは、格付け機関による日本国債ダウングレードに帰結する

これがオチでしょう。

そうした中でも、もし本当に安部政権により2-3%のインフレが実現し、さらに円安が進行したらどうなるのか。

その答えは昨年の10月以来ブログで連載をしていた「円高デフレのトラップに嵌まり込む日本」で述べたとおりです。それは、

インフレ → 金利上昇 → 国債暴落
円安 → 資金逃避 → 国債暴落


ありえないと思いますが、団塊の世代がインフレ傾向に浮かれて金融資産(今は預金ばかり)を消費に回したら

預金減少 → 銀行による国債売却 → 国債暴落

これもありえないと思いますが、企業が浮かれて設備投資を本格化したら

企業への貸出増加 → 銀行による国債売却 → 国債暴落

  こうして分解して見てくるとみなさんもお気づきになると思いますが、実はすべて国債の暴落につながっています。

国がこれほどまでに借金をひどく積み上げていなかったら、国債暴落につながることはないかもしれません。しかし残念ながらすでに日本国の借金の大きさは、「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えているのです。
コメント (3)
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