赤いハンカチ

夏草やつわものどもが夢のあと

▼憲法記念日に思う

2002年05月03日 | ■歴史的なあまりに歴史的な弁証法

今日は憲法記念日。

戦争を否定して、人権を立てようと真正面から歌って世界に冠たるわが憲法も、ここに来て一挙に形骸化がすすんできた。あっという間だったという気もするが、私には戦後半世紀かけて着々と、ここに至ってきたという感じがしてならない。我々こそたいした疑問も抱かず、そのレールに乗せられてきてしまったというのが実際のところのようだ。人は自分が食べるに忙しいから、よほど倫理につながる思想をしっかりしておかなければ、他人に「人権」があることすら容易に忘れる。

「食べる論理」から言えば、他者の存在も自分の都合勝手の範囲でしか理解できなくなる。自分の「食べる論理」を上手に客体化されているものとして国家が幻想されてくる。それにもうひとつ重要なのは、国家に匹敵して普遍化される「科学技術」というものがありそうだ。食べる論理を証明する「テクニック」とも言えるだろう。

このテクニックの享受こそ最大の価値観となり、倫理は後方に追いやられてしまう。食べる論理のテクニック=生きる方法論のふるまいこそ「国家」の価値であり「社会」の存在証明であるというのも、ひとつの思想には違いないだろう。「豊かさ」は個別人間の中にあるのではなく、外在しているものなのか。国家と社会の方に「豊かさ」はあるものなのか。

いずれにしても我々はそのように「社会」から「教育」されてきてしまっている。「人に迷惑かけずに自立せよ」・・・・これが倫理のすべてとなるなら、人と人の関係は先細りである。それに福沢諭吉翁をはじめ、この国では「愛」については誰もまともに話をしてこなかった。テクニックこそ至上のものとなる。食べるに能力のない人間は「社会」にとっても家族にとっても余計者となる。「働かざるもの、食うべからず」は聞こえはよいが、働くことも食うことも各自によって実に千差万別であり相対的な現象なのである。

あたかもここに一律基準があるかのように宣伝している者こそ、世を不要に騒がす真犯人であると、私は見なしている。月数万円で暮らしている人もいれば、100万なければ暮らした気にならないという欲望満載に腹つきだした御仁もいるだろう。どっちが人間的に正当かは言うまでもない。かように働くことも食うことも、人との関係を抜きに語ることができない。近代ニッポンはこれを社会的役割に基づく個人能力だけで説明しようとしてきた。

「人に迷惑かけるな」のかけ声は個人から、信仰と慈善を奪い、他者への想像力を奪ってきた。他人を思いやる気持ちを無化することこそ教育の目標であったかのようではないか。能力が実力ならまだしも弁解も立つ。だが多くの場合、所属集団や出自から個人の食べる分を与えようとする傾向は旧社会からたいして進展はしていないように見えてくる。

問題は、こうした「働く」理屈と個人能力だけが大手を振ってまかり通ってくるならば「勉強しない子ども」「出来ない子ども」は、それだけで「食う分」を与えたくなくなるのも人情となってくる。そればかりでない、腹つきだした御仁どもは相対的に貧しい人々を差別をもって蔑視する、その仕組みをあからさまに作り出そうとさえしてくる。

彼らはいつも偉そうに、収入の多い自分たちこそ「社会のためによく働いているのであり、人のために尽くしている」と主張する。かくして自分たちこそ「正しい人間」であると、手前勝手なテクニックを唯一の教義として子どもたちに押しつけようとする。これが「公教育」である。

親の分に応じて、無条件に子どもを「愛する=食べさせる」だけでは、まだ不足なのだと言う。これでは、本来備(そな)わっている生き物たる自己完結性を説明することができなくなる。我々はいつのまにか「野生」などというものは、すっかりどこかに置き忘れてきてしまったらしい。

誰しもが永遠に一人前にはなれない社会。死ぬまで人格上の不足感にあえぎ苦しむ。「少子化」の加速は、こうした社会意識がすでに現実化してきており、その予感の反映なのである。早晩この国では、子どもの姿は見たくても見られなくなる日がやってくる。それとも何か、子どもを可愛がるに国家公認のテクニックが、どこかに用意されているとでも言うのか。それがガッコであり教育だとでも言うのかな。笑止。

最後に・・・憲法記念日ということで強調しておくのだが、早い話ガッコの果てにあるものは「経済」の効率のことであり。教育の果てには、意外なことに戦争が想起されてくる。学校教育が、表面的には誰にとっても不平不満がなく、ほぼ完璧に施行運営されているように見えている時期というのは、驚くなかれ戦時体制のことだろう。どこの国でも歴史的には見事なほど一致しているのだ。このことが何を意味するか、一度じっくり考えてみるだけの価値はある

コメント
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