世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

蔵王のふもとの遠刈田系こけしの故郷には懐かしい雰囲気の豆腐屋もありました

2012-03-04 08:00:00 | 日本の町並み
 松丸駅と上諏訪駅の駅構内にある足湯の話題が続きましたが、今回も足湯のある温泉場の遠刈田を紹介します。現在は鉄道駅とは無縁の遠刈田ですが、今から75年前まで、東北本線の大河原との間に軽便鉄道が走っていました。もちろん、当時の鉄道駅には足湯なんぞは無かったと思いますが。

 遠刈田は宮城県の南端、蔵王連峰の東の麓にあります。白石駅や白石蔵王駅から1時間に1本ほどのバスで1時間足らずの場所にあり、蔵王の刈田岳に向かうバスも通ります。夏場は蔵王への観光客が車で通り抜けたり温泉に立ち寄っったりという感じですが、こんなところに鉄道があったと想像するのも難しい感じです。車が発達する前の大正期に、湯治客の足として開通したのが仙南温泉軌道という軽便鉄道です。この鉄道は、上り坂がきつく、当時の気動車の性能では速度が出ず、あとから走り出したバスとの競争に敗れて、わずか20年ほどで廃線になったそうです。上り勾配のきつい遠刈田寄りの8kmを2時間もかかったのでは、歩くのと変わりませんからね。

 遠刈田と聞くと「こけし」を思い浮かべる方も多いと思いますが、伝統こけしの故郷は決まって温泉場です。これは、江戸末期の東北の湯治場でお土産用に作られ始めた歴史によるものです。伝統こけしは、産地によって形式に特徴があり、10種類に分類されているようです。遠刈田系は、なで肩で額から頬にかけて赤い飾りがあり、胴には菊や梅の花が重ねて描かれています。温泉内にある橋の両端には、この特徴を持つ巨大なこけしがペアで並んでいます。この橋の上流には「みやぎ蔵王こけし館」があり、遠刈田系以外のこけしの展示も見ることができます。

 
 さて足湯ですが、温泉街にある2箇所ある公衆浴場のうちの「神の湯」の前にあって、湯口の近くは熱く、下流では少しぬるく感じます。「神の湯」の裏手に刈田嶺神社があり、参拝は山道を登ることになります。足湯は山道でくたびれた足を休めるのにちょうどいい場所にあるといえるかもしれません。

 
 その刈田嶺神社は、遠刈田温泉にあるものは里宮、刈田岳の山頂にあるものを奥宮と呼び、神様は夏は奥宮、冬は里宮にと季節によって移動されるのだそうです。遠刈田を訪問したのは6月でしたので、お参りした里宮に神様は不在だったことになります。神様不在の神社でしたが、拝殿の上部に彫られた獅子の姿はなかなかユーモラスでしたし、「湯神」という石碑もあって、入浴前後の散歩にはちょうど良い距離かもしれません。





 
 遠刈田では温泉街といった雰囲気は薄いように思います。これは、東北の湯治場にある程度共通しているのかもしれませんが、歓楽街的なにおいが少ないようです。むしろ、古い町並みが一部残されていて、日本の原風景の様相がありました。どっしりとした日本家屋は、東北大震災の影響だったのでしょうか、瓦が落ち、屋根も波打って廃屋のような姿でしたが、滅びの美学と言うと怒られるでしょうか。宮城産の大豆と蔵王の水を利用した豆腐も名物のようで、この豆腐屋さんも風情のある建物でした。

 こけしは、木工ろくろで木を円筒形に削りだして作られますが、別々に作られた頭と胴とがぴったりと合うのは職人さんの感と経験なのですね。作る課程で、特に寸法を測る様子も無いのですが。ITの分野でも、精密加工は全てコンピュータ制御のロボットマシンで作られると思いがちですが、最先端の物造りでは人間の感が大きく寄与している場面も多いそうです。町工場の片隅で、世界に冠たる部品が作られていたりするのですが、かつて中小企業を悪として潰そうとした大臣が居たのは悲しいことです。