世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

マラリアや交通の不便さが結果的に開発を妨げて自然が残された西表島です

2011-09-18 08:00:00 | 日本の町並み
 かつては、その存在も知られないような山奥の集落が、世界遺産に登録され脚光を浴びるようになったのが五箇山で、白川郷と併せて日本の秘境百選にも選定されているようです。その秘境百選の中には五箇山のような山里だけではなく海の村落も選ばれており、今回は海の村落のうち日本の西の端に位置する西表島を介します。

 西表島は行政地域としては八重山郡竹富町に属していますが、この竹富町の町役場は、名前からすると石垣島の隣の竹富島にありそうですが、竹富町ではない石垣島にあります。竹富町は八重山群島のうち、石垣島、与那国島、尖閣諸島を除いた島々から成っていて、これらの島々に行くには、すべて石垣港からの船によります。役場は、ハブになる石垣島に置いたということです。

 西表島は、このコラムのテーマである町並みはほとんどなく、あるのは手付かずの自然です。無人島を除いて、与那国島の次に西に位置し、沖縄県では沖縄本島に次ぐ面積の島ですが、人口は2,000人程度で、沖縄本島の1/600にも満たない少なさです。世界自然遺産に登録された小笠原諸島の父島とは人口がほぼ同じくらい、面積は西表島が10倍ほど広いことから、小笠原より自然が残されいるのかもしれません。こんな西表ですが、島を半周する道路があって、路線バスも走っています。このバスには、一日乗車券というのがあり、\1,000で一日中乗り放題なのですが、島の東南の大原港から北端の白浜に片道乗るだけで元が取れてしまいます。ただ、西側の半周にはまったく道路が無く、島の西北の船浮集落には船でしか行くことが出来ません。



 バスだけではなく、レンタカーもあるようですが、車を運転できない筆者はどうしても行動範囲は狭くなります。島の北部にある浦内川を船で遡上してジャングルを歩き、カンピラ滝を見るという観光コースもありますが、ちょっと時間的に無理のようであきらめました。代わりに、南東部に注ぐ仲間川を船で遡上して、マングローブの林やサキシマスオウノキという板状の根っこがある木を見てくるコースに乗りました。このコースは、石垣島からの定期船が着く大原港から乗船できるので、観光客の数も多いようです。このコースでも、川の周りはジャングルで、猛獣こそ出てきませんが、作り物のディズニー・ランドよりずっと迫力があります。

 
 もう一箇所、観光客が手軽にいけることが出来るところが、島の東側の小浜島との間に浮かぶ周囲2kmほどの由布島です。ここの売り物は、遠浅で干潮時には西表島とつながってしまう浅瀬を、水牛車で500mほど渡って行くことです。砂に埋もれる車を引く水牛も大変だろうと思います。島の中には亜熱帯植物園があって、小さなジャングル探検のキブンが味わえます。由布島の周りにもマングローブがたくさん茂っていて、その根元には、本土のハマグリよりも大きなしじみの貝殻も落ちていました。また、穴の中にはヤシガニらしきものも見つけましたが、引っ張り出すことは出来ませんでした。

 こんな、平和な由布島ですが、戦争中にはこの由布島に陣取る軍部に島民はずいぶんと苦しめられたようです。島民と言っても、波照間島など他の島から強制疎開をさせられた人々でした。もともと、西表島はマラリアが発生する地域で、移住させられた住民の多くはマラリアに感染して死亡してしまいました。当時の軍部は、マラリアに汚染されていない由布島に陣取って、強制移住などを命令していたようです。もちろん、現在ではマラリアは撲滅されていますが、戦争による悲劇を忘れないためにと、島の南部の南風見田に「忘勿石之碑」が建立されています。

 西表島は八重山群島では最も大きな島ですが、人口はたったの2千人ですから、発電所は無くより面積の狭い石垣島から海底ケーブルで引かれているようです。筆者が訪問したときには、携帯ではなくPHSを使っていましたが、もちろん圏外です。同宿の方は携帯を持っていましたが、やはり通じないようでした。人口が少ないところでは、携帯電話の充電は出来ても、通話は出来ない、ということでしょうか。