世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

石段沿いのレトロな木造の旅館群が伊香保の魅力です

2011-07-10 08:00:00 | 日本の町並み
 お雛祭りの時には町中にお雛様飾りがあふれ、200体のお雛様が神社の石段に並べられてみるものを圧倒した町が勝浦でしたが、風情のある石段沿いに旅館街が建ち並び石段の湯という日帰りの湯まであるのが伊香保です。今回は500年近い歴史を誇る伊香保温泉周辺を紹介します。

 伊香保温泉は、群馬県のほぼ中央部の渋川市の一部ですが、2006年に合併するまでは伊香保町という独立の町でした。JR高崎線の渋川からバスで山に向かって20分程度走ったところですが、かつては高崎から渋川駅を経由して東武伊香保軌道線という路面電車が通じていました。温泉街の中心となる石段は365段で、1年の日数を意識したのでしょうか。かつての路面電車の駅は標高的に石段の下になりますが、現在のバスは石段の上部近くまで上ってくれるので散策には楽をさせてくれます。

 
 バスターミナルを降りると伊香保ロープウェイの駅が見えますが、そこから石段のある方向に行くと苔むしたいわくありげな施設が左手に見えてきます。坂を登ってみると、戦前まであった伊香保御用邸跡なのですが、廃止された後の大火で建物も失われてしまい、現在は木々の緑の生い茂る廃墟です。御用邸があったという記念碑と玄関にあった沓脱石がひっそりと残るのみです。

 そこから石段までは200mくらい、石段のてっぺんには伊香保神社があって、温泉と医療の神様がお祭りされています。
 神社の横を少し下って裏手に回ると、川沿いの道が続いていますが、その途中に温泉饅頭を売るお店があります。茶色の温泉饅頭の元祖は伊香保だといわれています。さらに川を遡っていくと源泉があり、飲泉所も設けられていて蛇口から温泉を飲むことも出来ます。
 
 日本では、温泉というと入浴ということですが、ヨーロッパでは飲用目的も多いようです。チェコのカルロビバリでは、取っ手のところが中空になっていて、ストローのようにして温泉を飲めるコップが売られていました。カルロビバリといえば、明治のお雇い外人の一人で、日本の医学会の発展に尽くしたベルツ博士は、草津温泉を広く世界に紹介しましたが、その時にカルロビバリより賑わうだろうと評したそうです。その草津温泉より前に温泉医学を指導したところが伊香保で、源泉近くにはベルツ博士の胸像が建っています。

 この伊香保の湯は、昔から利用されていたのが黄金の湯といわれる鉄泉で酸化鉄の茶褐色をしたものでした。近年には、この黄金の湯にケイ酸を多く含む無色透明の白金の湯が加わって金銀のそろい踏みになったようです。お湯を金と銀とであらわすのは兵庫の有馬においても同様で、こちらは金泉と銀泉と呼んでいます。明治から昭和初期にかけては黄金の湯のみだったでしょうが、竹久夢二、徳富蘆花、夏目漱石、萩原朔太郎、野口雨情など多くの文人が訪れたようで、東京から逃避するのに程よい距離だったのかもしれません。特に徳富蘆花は、この地を好んだようで小説「不如帰」は当地で執筆され、晩年には再訪してこの地で生涯を閉じました。

 さて、石段に戻ると、急な斜面にへばりつくように古風な木造の旅館街が建ち並んでいます。この高低差のある場所にレトロな建物が密集する景色が伊香保が他とは異なる魅力の一つになっているように思います。この階段とレトロな風景をどこかで見たぞ!と考えたところ、台湾の北部にある九份の景色に似ているのです。九份は温泉は出ませんが「千と千尋の神隠し」のモデルとなった所として日本人観光客が増えているところです。

 源泉の近く、ベルツ博士像の近くに「ラドン発見の碑」なるものが建っています。日本で最初にラドンが発見された所ということですが、温泉にはラドンやラジュウムなど放射能泉もあり、痛風や高血圧に効果があるとされています。一方で、放射線は極力浴びないほうが良いとされる見解も存在します。放射線にも含まれる電磁波の人体への影響は、解明されていないところも多いようで、携帯電話が人体に与える影響も無害説が定着するかと思うと最近は有害説も報告されています。耳に当てる携帯では電波の発信源が脳の近くにあるため、一日に長時間使用すると、影響が出るとのことです。電磁波による障害より、先に携帯依存症の症状が出るのではないかとも思いますが。