世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

公園の中に大伽藍のお寺がある場所だけが奈良ではありません、奈良町

2007-06-03 17:21:45 | 日本の町並み
 埼玉県の小川町は和紙の故郷でしたが、和紙といえば障子紙としての用途の他に書道で使われることも多いのではないでしょうか。書道で消費されるものは和紙の他に墨がありますが、今回はその墨の国内生産の90%を生み出す奈良、それも東大寺や興福寺などのある地域ではなく、古い民家の建ち並ぶ奈良町周辺を紹介します。

 奈良町は、修学旅行生などが闊歩する近鉄奈良駅から若草山にかけて公園の中に大寺院が連なる場所ではなく、その南側に広がる民家を中心とした町並みです。近鉄奈良駅から南東方向に歩くと、お寺中心の風景を見慣れた目には、ちょっと新鮮な奈良の町が広がります。奈良町にも元興寺極楽坊(がんこうじごくらくぼう)など大きな寺院もありますが、町並みの中に溶け込んでいて、あまり自己主張をしていないようです。

 町並みの中に伝統的な町家を再現した格子の家が内部を公開していて、奥行きの深い町家の状況が見学できます。

坪庭や箱階段それに吹き抜けのある通り小庭など、京都の町家とも共通点が多いように思います。このほかにもユニークな博物館などが点在していて、町並み散歩を楽しくさせています。庚申堂(こうしんどう)、今昔工芸美術館、奈良町資料館それにちょっと変わったところでペルシャ文化を展示する奈良オリエント館もあります。これらの建物も、多くは町家を利用したもので、町の風景に溶け込んでいて、場所を探すのに苦労するくらいです。庚申堂には身代わり猿という、ちょっと見には猿と判別が難しいような丸まった猿の人形が紐にくくられてぶら下がっています。この猿は庚申さんの使いとして魔よけの意味があり、奈良町の民家の軒先でも良く見かけます。

 ところで、書道に使う墨の原料は、油が燃えた時に出る煤(すす)で、この煤を膠(にかわ)で固めたものが墨となります。燃料などに使う炭と墨とは字は違っていますが主成分は同じ炭素で、発音も同じ「すみ」です。炭のほうも柳やプラタナスなどの炭をデッサンの筆記具として使うところは、似ている面の一つでしょうか。木材を加熱して揮発分を追い出して残った塊が炭、油を燃やして揮発した不完全燃焼分を集めたのが墨、似ている「すみ」も作り方は正反対のような気がします。

 炭も墨も炭素原子でできていますが、宝石のダイヤモンドも炭素原子でできていることは良く知られています。不純物や結晶構造の差によって希少価値のあるダイヤになるか、燃料にして燃やされるかの分かれ道になるようです。純度を極限まで高めたり、結晶構造を変えたりすると、通常の状態とはまったく異なる振る舞い方をする材料も多く、地球上に酸素の次に豊富に存在する元素で今日のITを支えている珪素などはその代表格ではないでしょうか。