くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「内定取消」間宮理沙

2010-06-24 20:36:08 | 社会科学・教育
朝5時起きして水泳大会引率だったにも関わらず、これを読み切るまでは寝られん! と、思った本をご紹介しましょう。
間宮理沙「内定取消 終わりがない就職活動日記」(日経BP社)です。
ひどいー。一体何の目的でこんなことをしているのでしょう、この会社。昨今の不況のため、内定取消にすると賠償しなくてはならないから、自分から辞退という形にしたかったようですが、余りにもひどい。
密室で役員と二人、面接といいながらずっと暴言を吐かれ、履歴書やエントリーシートに書いた内容を否定していく。自分をクズ呼ばわりされることが延々と続き、プライドはずたずた。
かといって、四年生の卒業間近では、いまさら進路変更できません。資格を五日で取れと無茶な要求をされ、大学の試験と重なりながらも頑張って挑戦するのですが、合格点にはあと二点たりず……。そのことでさらに無能だと決めつけられるのです。(これ、受かっていたとき用の対応も決めてあるんでしょうかね)
間宮さんは、体調を崩し精神科に通いながらも、内定先だった会社に謝罪を求めていくことを誓います。
すごいのは友人のSくん。わざわざ一人のために、4時間以上もかけて役員が辞退を迫るのは、いくら何でもおかしい。間宮さん以外にも同じような目にあった人がいるのではないかとアドバイスしてくれるのです。
そこで探してみたところ、出るわ出るわ。会社をあげての勧告劇だったのです。
間宮さんの味方になってくれた大学の就職課。カウンセリングを受け、家族にやっと告白したことで、だんだんと前向きになってくる。同じように面接されていたTくんが会話を録音してくれるなど、コミュニティも出来ていきます。
Sくんが指摘したように、会社は内定者を孤立させようとしているようでした。たたみこむような攻撃で心をくじけさせ、用意されたように辞退の書類が出てくる。
自分は役に立たない人材なのだと挫折を味わい、誰も相談する人がいないまま辞退することになった人がどれほどいたでしょう。
間宮さんはインターネットから情報を集め、メーリングリストを作ります。驚くべきことに、こういう対応を受けたという報告はかなり多く、どういう基準で彼らが選ばれたのかはわからない状態。
補償金を出すには経営が苦しい。そういう理由で仕組まれたプロジェクトならば、このために企画をしたりシナリオを書いたりした人がいた筈です。会議で話し合ったりもしたのでしょうか。
自分たちの都合で、若者の未来を奪うなんて。自己嫌悪から立ち直るまでにどれほどかかるかわかりません。
文章から考えて、間宮さんは明るくてとても優秀な方だと思います。その心を萎えさせるのですから、ほかの人の場合でも、次のことに挑戦する気持ちをねこそぎ奪ったのであろうということは自明です。
見返しには「ブラック企業」とありますが、間宮さん自身はそのような表現はされていません(巻末のマニュアルの小見出し程度です)。ですから、本当に一見まともそうな会社なのでしょう。どうしてそういうことを始めたのか想像もつきませんが、企業として、誠意をもって対応することが大切だと感じました。回り回って首をしめることになるのでは?