くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「小暮写眞館」その2

2010-06-14 05:51:31 | ミステリ・サスペンス・ホラー
地に足の着いた物語だと思います。みんな実直に暮らしている。その中で心霊に関わる部分をどう処理するか。そのために宮部さんはこつこつ伏線をはっているのです。前半の二章はそういう異世界の存在を、英一と読者に覗かせる構成でしょう。
でも、わたしは一見心霊的でありながら、実は子供の心の闇を浮き上がらせる三章の方が好きなのです。あ、物語では二章がいちばんバランスがとれているかな。
婚約者を裏切る形になってしまった男性の悔恨話です。彼にたいしてある女の子がそんな態度のままでいるのはよくないと説教する。そこで彼は、意を決して会いに行くことになるのですが。
ごめん、この結末で本当にいいのか、わたしには割り切れないものが残ります。
いいんですよ、ハッピーエンド。でも、なんだか本当にそいつでいいのか、と。亡くなったお父さんとともに問い詰めたくなるのですが。
さらに。
ふと、後半、英一が父の家族にたんかを切る場面に違和感のようなものを覚えてしまうのです。七年前のことがいつまでもわだかまりになっていたことを解放するための場面なのはわかりますが、それは必要なことなのかなー。
どうも細部にちぐはぐなものが残るというか。
光はうちの息子と同世代。比べものにならないほどに優秀なお子さんですが、いくら心理的に夜尿症ぎみになっていても、高校生のお姉さんと女子トイレには行かないでしょー。だいたい、夜尿症と昼間のトイレが近いこと、関係ないのでは。内緒で霊園に行ったり、一人で自分の部屋で寝られる子なんだよね?
わざわざ高校生の息子に、弟のトイレに気をつけさせる母親。わたしは京子さんのことが好きではないのかもしれません。発熱した四歳児を目の届かない場所に寝させるなんて、怖くてできないよー。
最後に、寺内千春について。
「コゲパン」とあだ名される彼女の人柄、さっぱりしていていい子だと思います。ただ、小学生のころの蔑称が高校生になっても続いといて、それを周囲がただのあだ名として捉えている状況というのはどうなのか、と。かなり仲のいい英一やテンコにもそう呼ばれているのですね。でも、本人の内実としては忸怩たるものがあるのではないかと思うのですが、考えすぎでしょうか。
この作品、幽霊をテーマにしていますが、直接的には家族の前に姿を現すことはありません。そこが宮部さんらしいともいえますが。
でも、わたしとしては、結局「犯人探し」をしていながらそちらの方面ではない部分を綴った「誰か」で肩透かしを食ったような気になったので、これもその点では残念ではあります。
偏見が続いたせいかもしれませんが。