くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「しずかな日々」椰月美智子

2010-06-29 04:38:27 | YA・児童書
つい、読んじゃいました。二ページほどめくったら止まらなくなってしまって、朝は5時に起きて読みふけりました。やっぱりいいー! 椰月美智子の最高傑作だと思います。やっとやっと文庫になったんだもん。待ち切れなくて単行本買おうかと本気で思った矢先です。
学校用にもう一冊買おうかと思ったら、フェアやってないせいか置いてないよ講談社文庫……。
「しずかな日々」。少年の日の思い出を、主人公枝田光輝が淡々と話す構成なのですが、とても輝いていて、静謐なドラマなのです。
以前読んだときも「母と子の別れ」を描いた作品だと思ったのですが、再読すると母の背景がある程度クリアぬるような。押野の名前を聞いたのも、姓名判断をしていたんだよね。宗教家になった母について、息子が振り返る側面もあるかも、と思いました。
枝田にとって、母と別れて暮らすのは「最悪」の想像だったはずなのに、いざおじいさんのところで暮らし始めると、母からはどんどん遠ざかっていくような気になります。ほんの十日ほどなのに、母は変わったと彼は言いますが、実際には枝田本人も変わってきているのです。
かつて、空き地で野球をするためにバットがほしい。そういうと、母は封筒に一万円入れてくれました。そうして買ったバットは、「最初で最後の」プレゼントだったと書いてあったのですが、その後誕生日に自転車をもらったよね? これはみどりさんが選んだから違うのでしょうか。
それにしても、この家の涼やかさはどうでしょう。わたしも日本家屋に住んでいましたが、夏は暑かったよー。裏は竹林で緑も多いと思うのですが。そうそう、雨戸もありました。
おじいさんの漬け物と、大きく握ったおにぎり、食べたいです。
横道ばかり書きましたが、枝田は、押野と出会ったことで、世界が開いたのだと思います。それまで、母の世界と重なりあいながら生きていた少年。この出会いがなければ、おそらく枝田は母について行ったのでしょうね。何の疑問もなく、そうやって暮らし続けたことと予想します。でも、友達によって社会とつながった枝田には、母の姿が嫌なものとして写るようになるのです。
押野にも父親はいません。お菓子作りの上手な姉がいますが、家庭的な面では二人の家族は似ている。父親が物心つく前に亡くなっていることも共通しています。しかし、二人は全くタイプの違う少年です。でも、何か気が合う。
隣の校区の六年生、じゃらしとヤマもいいです。グッピーの水槽を囲んで、楽しそうに縁側にいる四人。半年前まではおじいさんのことも枝田のことも知らない子供たちが、なかよく漬け物をかじって笑いあっている。
「しずかな日々」は、彼が択びとった道。もう一方の道は、おそらく喧騒に満ちているのでしょう。
いいなあ。もっとずっと、この世界にひたっていたい。そんな気持ちになります。好きな文庫だけを入れる本棚に、大切に並べたい作品です。