くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「少女」湊かなえ

2009-03-15 06:11:38 | ミステリ・サスペンス・ホラー
この構成は「武士道セブンティーン」に似てますね! 17歳の女の子の一人称で交互に語られるところとか。しかも二人ともかつて剣道をしているし。そんなことを思うのはわたしだけですか……。
湊かなえ「少女」(早川書房)です。同級生の紫織の言葉で「死」を見たいと考える敦子と由紀が、それぞれ「死」に近いと思う場所でボランティアを始めることになります。
しかし、敦子のいる老人ホームも由紀がいく病院も意外に共通する人脈があり、二人はお互い気づかないまま、ひとつの終幕に向かって走り出すのです。
二人は親友といっていい関係だと思うのですが、思春期真っ只中のせいかちょっとぎくしゃくしています。二人のバランスが崩れたところに、三人だったらなんとかなるのではないかと引き込んだのが、黎明館高校から転校してきた紫織。
でも、ボランティア中の二人を見ていると、由紀も敦子も紫織のことは余り気にかけていないように思いました。かえって、意地を張りながらも自分にとってかけがえのない友人が誰なのかを確認しているようにも思えます。
この小説の周到なところは、二人の間柄が落ち着くまで「親友」という言い回しを避けているところです。そのことは後に述べるとして。
この作品を貫くキーワードは「因果応報」でしょうか。誰かの行動が誰かの窮地に関わり、また自分にかえってくる。由紀の書いた原稿を盗んだ小倉の末路は悲惨です。わたしはこれ、セーラの自殺とどちらが先なのか気になったのですが、セーラ・退職・駅で自殺の順のようですね。
敦子が書いた中傷がセーラの死のひきがねになっているし、その背後には由紀の復讐がある。敦子自身、「学校裏サイト」に書きこまれて、進学も剣道も諦めた過去があるにも関わらず。
そういう伏線がぱっとほどけていくのもおもしろいのです。
この敦子という少女は、鈍いというか何も考えていない子として設定されています。家庭環境にも恵まれ、剣道では日本一になったこともあり、とても幸せな少女なのですが。
この物語の中心は、どちらかといえば由紀寄りの気がします。由紀はクールで無表情な文系女子ですが、痴呆気味の祖母からの折檻が原因で左手の握力が三しかありません。
二人はこの夏休みの間に、相手よりも早く「死」に触れたいと考えています。しかし、目前に現れようとしたそれを、敦子は反射的に振り払い、由紀は自分自身が死にそうになるほど血の気を失います。
敦子は由紀の手を引いて逃げ出しますが、その力が由紀を救うのです。そして、敦子がそんなふうに行動できたのは、その前に由紀の文章で救われたからなのです。
女の子の友情が描かれる部分がこの物語の90%ほどを占めているのですが、前後を挟むモノローグによってもうひとつのエピソードが浮かびあがります。
敦子も由紀も、互いをかけがえのない友人だと再認識します。だから、もう、間を取り持つ紫織という存在も必要ではないのです。
紫織がネットによる中傷を受けているとき、二人は彼女から離れていきます。話しかけようとすると不意に用事を思い出したようなそぶりで。
敦子にはその自覚がなさそうなので(自分の「親友」もそう思っているだろうと言ってるからね)、しかけているのは由紀でしょう。滝沢のことを訴えた時点では紫織との関わりを知っていたかどうかはわかりませんが(知っていたら、そのことをみんなに教えたのも由紀でしょうね)、迫害される時点では間違いなく知っていたはず。
由紀、という少女のことを、それまでに充分わかっているので、ラストを読んだあと鮮明にその行動が見えるのです。
ところで、由紀の苗字は「桜宮」なのですが、これはどうなのでしょう。確か「世直しやんちゃ先生」もそうだよね? 「告白」とどこかリンクしているのですか。
「告白」、本屋大賞に選ばれましたね。わたしは個人的には「少女」のほうがおもしろかったと思うのですが。後味の違いかな。
関係ないけど、最後に「岡ちゃん」について。
読み聞かせのサークルといってるけど、本当にほかのメンバーはいるのでしょうか。彼女の宗教的道義心と同じものを持っていなくてはできないような気がする……。
となると、毎日彼女はボランティア(というより布教?)を続けているのですね。それはそれですごいことです。
エプロンシアターでは、実際の「おはなし」の内容をかえても神様の教えに忠実に演じる方を優先する彼女を、慰問先の方々はどう思っているのでしょう。内容云々より、来てもらったことの方を重視しているのかな? 数年前に話題になった「政治的に正しい」物語のことを思い出しました。
でも、歪んだ物語観を持っているのは岡ちゃんだけではないですよね。紫織は「自分は悪いことを何もしていない」と考えているけど、高尾さんを陥れたのも彼女のわけだし……。
そう考えると、始めに種を蒔いたのは紫織なのかもしれません。因果応報。「死」を自慢そうに語った彼女の死を、敦子と由紀は知ることになるのです。

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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-07-02 10:17:29
おはようございます。
嬉しいです。頑張って下さい。今日の朝は、「虎に翼」の第67回を見ました。
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