くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「新体操ボーイズ」荒川栄

2010-06-15 05:54:02 | 芸術・芸能・スポーツ
すっごいおもしろかった! オススメします。熱血先生の情熱的なお話をみっちり聞かせてもらったような感じでしょうか。
荒川栄「新体操ボーイズ~熱血先生、愛と涙の青春奮闘記~」(青志社)。
このタイトルはもう少しなんとかならんのかと思わないでもないですが、新体操をなんとかメジャーにしたいという荒川さんの熱い思いは伝わってきました。
男子新体操。よく知らない人にとっては、女子の華やかな世界のイメージと重なって、リボンやループによる演技なのかと思われることでしょう。
わたしが仙台で講師をしていた時代、新体操部がありました。女子は顧問も経験者だったのでかなり盛んだったのですが、男子部員は一年生が一人。で、この子がいつも黙々と一人で練習していたのです。
実は、今まですっかり忘れていました。記憶が蘇るのって、すごい。
筆者は青森山田高校で新体操部の監督をされています。かつては国士舘大学でインカレ三連覇を成し遂げたとか。
学生のころ、男子新体操の団体演技を見て、その統率のとれた身体表現に息を飲んだものです。わたしは器械体操が好きなのですが、床運動を集団でやっているようなイメージでした。
スター選手だった荒川さんですが、ほかのスポーツと違って、卒業後に実力を活かす場所がないことに気づき、愕然とします。
縁あって盛岡の高校で指導することになるのですが、なかなか部員が集まらずに苦労したり。
ダンスとの融合やら新しいユニフォームを着ての大会やら、教え子の夢を引き継いでの挑戦やら、非常にドラマチックです。
わたしは、奥さんの直美さんがすごいなーと思います。貯金を切り崩しながらも荒川さんを支えようとするところ、大手に就職したのに、いつの間にか岩手でダンスを教えているところ、加えて二人三脚で山田高校のコーチを引き受け、選手の体調管理を掌握しているところ、などなど。なかなかできることではないですよね。
監督の目から見た選手たちのひたむきさもいい。チームとしての高まりを作るために努力する姿が恰好いいです。
ただ、気になるのは中田さんはまだ売店勤務なのでしょうか。尊敬する先輩と郷里で最高のチームを作りたい。自分は高校、先輩は大学の指導者というプランで母校に戻ったのに、用意されたポストは予想と違っていた……というくだりは結構印象的でした。香川県で教師をしていた中田さんは、素人を基礎から育てていいチームを作る方だったのに、自分の夢に付き合わせてしまったために辛い思いをさせた、という悔恨。自分も新しいチームと合わず、この選択でよかったのかと迷いが生じます。
生徒たちと向き合ううちにそれも解消されていくのですが。
わたしは、盛岡時代の荒川さんと青森に戻ってからの彼では、選手の育成に差ができたのではないかと感じました。
盛岡では、体操部のある中学校のコーチとして出発。自分が高校教師になるとついてきてくれる生徒がいたので、後輩を指導者として依頼するなど、中学生からの育成につとめたわけです。でも、青森では「人買い」と噂されるほど、全国から有力な選手を集めてきている。
で、考えたのです。一流といわれる強豪校に入るには、その前段階で既に名をなした選手でなければならないのか、と。中学生で選んだ部活に例えば新体操がないのであれば、彼に才能があったとしてもスカウトの目にはとまらないわけです。
裾野を広げるにはスター選手の存在が必要だと荒川さんは言います。でも、はじめからその部がないところに、一から作りあげるのは難しい。おそらく指導者として教員を選んだ選手たちの大半は、違う部の顧問をさせられるケースも多かったでしょう。
そう考えると、彼が巡りあった中学の体育の先生はすごい。新設した部で、しっかり育成してくれたんですね。