くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あの作家の隠れた名作」石原千秋

2010-01-02 06:24:47 | 書評・ブックガイド
2010年の幕開けは、石原千秋「あの作家の隠れた名作」(PHP新書)でございます。
わたしはこれ、石原先生によるアンソロジーだと思いました。小説がそのまま載っているのではなく、石原先生がその作品をどう読んだかのポイントが示されていて、おそらくこれを読んだあとに原典に当たったら、もうそのようにしか読めないのではないか、とすら思わされます。ちょうど、「猫町」が違う角度から見た町の様子を描く小説であったように。
アンソロジーにも小説の視点にも興味があるので、たいへん楽しく読みました。
でもこれは、自分が学生のときに読みたかったなあ! 論文を書くときにどんな点に注目すればいいのかもわかるようになっていて、たいへん参考になります。
文学の論文というのは、その作品の「見方」を論じるものですから、同じ作品でも「もうひとつの側面(または「もうひとつの物語」)」を探り出すものだといえると思うのです。いわば、物語の発掘。それは作者の意図もあるでしょうし、逆に意識すらしていないことすらある場合もあります。
おそらく、ここにとりあげられた12点の作品のうち、大半は読んだことがあると思うのですが、すみません、遠い記憶の彼方です。川端も梶井もかなり読んだので、多分読んだだろうとは思うのですが。かろうじて、芥川の「蜜柑」は覚えています。
で、この「蜜柑」の項がおもしろいのです。主人公と小娘の位置関係を考えるとき、この汽車はロングシートかボックスシートか、という問いで、場面のイメージが全く変わってくる。わたしも、恥ずかしながらボックスシートだと思っていました。子供のころから利用していた電車がイメージされていたのではないかと思うのですが。
また、この作品に限らず、「語り」の問題が多く取り上げられているのも、考えさせられます。
普段、主人公の語りについて、わたしは余り意識してはいないのでしょうね。でも、作品を教材として見つめ直すときには、もっとじっくり読んでおくべきなのでしょう。さらに、作品の時代背景や社会の気分も、伝えていかなければならないのだな、とも感じました。
男作家による「女語り」、女作家による「男語り」、主人公の視点を超越した共謀関係。そして、一言一句をおろそかにしない、読みのあり方。
表面的な読みから一歩深めた読みへ、すすんで行かなければならないのでしょうね。うー、頑張ります。(できるかな?)