くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「坂道の向こうにある海」椰月美智子

2010-01-03 06:40:38 | 文芸・エンターテイメント
最初にあらすじを聞いてしまったせいか、まったくその通りの話だったというしかないんですが。
でも、最近の椰月さんに感じていたあざとさがなくて、久しぶりにほっとしました。これはどうなんだろう。知らないまま読んだ方がよかったのか、それとも知ってから読んだのがよかったのか。
「坂道の向こうにある海」(講談社)です。構成は「るり姉」同様、登場人物たちの視点が入れ変わって、人物像を浮き上がらせる手法。
とある介護施設で働いていた四人の恋愛模様が描かれます。椰月さんがストレートな恋愛を書いているのを読むのは、初めてのような。
朝子は正人と恋人同士ですが、その前は卓也と付き合っていました。しかも、当時正人にも梓という彼女がいて。そしてさらに、現在卓也と梓は付き合っている、というかなりごちゃごちゃした関係を、さらりと書いてあります。
朝子は、ハンサムなうえに気がきく正人と付き合っていることに危機感を抱いています。しかも自分の横恋慕から始まった恋。いつ壊れても不思議ではないと考えている部分がある。
そのため、正人とわざと会わないようなふりをしたり、彼と破局したあとになりゆきで付き合う人と結婚するだろうなんてうそぶいたりしています。
年下で美人の梓にコンプレックスを感じているようですし、自分と正人とのことを肯定することができずにいます。
それに対して、ほかの三人は割合切り換えているような。いや、多少引きずってはいますけど。でも、卓也なんか梓と付き合って、これが本当の恋だとか言ってるし。(ごめん、よく見たら「それまでの恋がまやかしだったことに気付いたのだった」と書いてありました)
わたしは始め、中心になっているのは正人かと思っていたのですが、自分にとっていちばん比重が重かったのは朝子でした。彼女が自分で思っていることと、外部の見方が違っていたり。
それぞれに重いものを抱きながら、収まるべきところに落ち着いていく物語だと思いました。
個人的には、小田原城址公園の象が気になりました。知人が学生のとき、友達とここに遊びに行った話を思い出します。ふと気がつくと友人がいない。見渡すとなんと象のおしりに手をあててポーズをとる姿が……。
すみません、関係ないですね。だけど、ウメ子の死後、本当に動物園はなくなるのですか?
あ、この話にも箱根駅伝が出てきました。往路の応援。
そのほか、様々な場所が語られているのを見ると、「小田原」を描く都市小説の側面もあるように思いました。