くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「銭湯の女神」星野博美

2009-03-26 05:33:47 | エッセイ・ルポルタージュ
ほ、星野博美さん、女性だったのですね……。硬派な語り口から男性だと思っていました。すみません。職業写真家、も惑わされる要因になっていたかもしれません。いかんですね、固定観念に捕われていては。
ということで「銭湯の女神」です。帯には「掌編」と書いてあるけどエッセイだよね。もう固定観念ぶち壊されまくりの開眼エッセイです。
赤木かん子の「ポプラ・ブック・ボックス」で紹介されていて、すぐ本屋に走ったけど文春文庫版は見つからず。でもぜったいこのタイトル見たことあるから! と探しましたよ。よかった、図書館にあって。
でも、目次と本文の一部に書き込みがあって、ムッとしました。公共のものを大切にできない人がいるのは腹立たしいですよね。見つけたら消しゴムかけています。
星野さんの考え方は、いろんな側面から見つめた上で導き出されているような気がします。写真を撮ることと共通するのかな。
とにかくいろいろなものについて考えます。ゴミ捨て場、テーブル、擬装結婚……!
星野さんが憂えているのは自分が「大女」であること。ショートカットなのでしょっちゅう男に間違われ、なぜか日本国籍の人とは思われず、困惑しています。
あーっ、わかるよー! わたしも大女なので……。身長、「高い」とは言われません。「デカイ」と言われるのです。くぅっ……。
銭湯に通う星野さんには顔見知りがたくさんできますが、話したことのあるのは「美人母子」だけ。常連の「ふき子」の生命力あふれる裸体に圧倒され、フリースペースの荷物を見て考察する。そんな日常もおもしろいです。
後半に行くにつれて、自分の駄目駄目ぶりを嘆く内容が増え、うどんに溶き卵を入れようとして沸騰するまで待てずに、白濁したつゆをやり切れない思いで見つめ、一生夏ならいいのに……と呟いたり(冷たいうどんしか作らなくてすむからです)、いざとなれば実家に帰ったり他の場所に引越したりして「リセット」できてしまうことを「エセ貧乏」と表現したりもします。
わたしが今考えていることにいちばん近いのは、その二つに挟まれた「新しい歴史教科書」かもしれません。
中学一年生のころのことです。
星野さんのクラスの担任であったF先生は、生徒に教科書をしまわせてこう言います。
「教科書をうのみにしないでください。そして、歴史をうのみにしないでください」
「世界の何千年の歴史が、このたった一冊の教科書の中に入っているんです」 「ある場所で何かが起こる。それを誰かが記録する。そして大勢の人間が集まって会議をし、これは教科書に入れよう、これは削除しようと話し合う。自分たちに都合のいいことを入れたり、都合の悪いことを消したりするわけです。そうしてできたものが教科書です。皆さんには、そのことをいつも覚えていてほしい」
「なぜそんなことが起きたのか、ここで書かれていないことは何なのか、それを考えてください」
わたし自身、新年度の変わりめに、ちょっと落ち込むことがあって、それが刺のようにどこかに刺さったままだったのですが、いろいろ考えるうちに「他のひとと比べる必要はない」ということに気づいて少し楽になりました。この思いにたどり着いたのは、中一の女の子が「小学校のころは国語が苦手だったけど、みんなと同じ意見じゃなくていいんだと思ったら楽になった」と書いてくれたことが大きいと思います。
教育というものがもつ力は、それを支える人のものの見方で大きく変わります。何を大切にしているのか。何を切り落とすことになるのか。そして、受け取る方はまた、自分の持っている視点によって一人ひとり違うのです。
星野さんはF先生のこの言葉を、二十年たって振り返るのです。
「今思えば私が受けた義務教育期間中の最大の事件だった」
時が経たないと見えないものもあります。
見る・語る・読む。星野さんの鋭い洞察力に、読者は多分いろいろなものを発見できると思います。でも、目を留める部分は一人ひとり異なるはずです。それでいいんだし、それがいいんだとも思うのです。

ところで、これによく似た題名があるような気がしてずっと考えていましたが、やっとわかりました。杉浦日向子「入浴の女王」。

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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-07-10 15:40:30
こんにちは。
うどんは美味しいですね。食べるのが大好きです。頑張って下さい。今日のお昼は、「虎に翼」の第73回を見ました。
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