くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「伝説のプラモ屋」田宮俊作

2010-01-23 06:22:09 | 工業・家庭
ほんとうは昨年中に読み終わるはずだったのですが。
「朝読書用」の本として選定してしまったため、冬休みで一時中断していました。持って帰ってもよかったんだけど、これが短時間に読むのにいいんですよ。教室向きなので、あえてそのまま。買ってからかなり長い間放っておいたので、これはお蔵入りかと思ったこともあるのですが、「田宮模型の仕事」がとってもおもしろかったことを思うとやっぱり諦める訳にはいかず、教室で読み始めたら、いい具合に読めました。
短いエピソードが連ねてあるので、五分十分という区切りには最適。田宮俊作氏の語りがまたいいのです。
「伝説のプラモ屋 田宮模型を作った人々」(文春文庫)。教材模型を作っていた静岡の小さな工事が、世界の「タミヤ」として躍進していく様を、関わった人々のエピソードとともに綴る一冊です。
なんといっても冒頭の、奥様の話がすばらしいのです。危うく泣きそうになったではないですか。一家を支えてきたお母さんが亡くなり、俊作さんは結婚することになります。新妻である奥様が、弟たちの母がわりとしてサポートしていくのです。「母がいたから、父は仕事に専念できた。そして私は、彼女がいるから、ずっとタミヤと模型のことだけを考えていられる」
この文にこめられた万感の思い。いいですね。

タミヤが世界に進出していく過程で関わってきたたくさんの「職人」たち。起死回生を狙ったパンサー戦車を発売するために取材し、金型をとり、パッケージを作り、一方ではセールスに走り、ファンサービスを行い……という一つ一つに、関わってくる人がたくさんいるのですね。
金型というと、星野博美さんがお父さんについて書いた「100円の重み」を思い出します。寸分の狂いも許されない、職人の腕の確かさを求められる世界。そして、初期のパンサー戦車の金型が、社員の手によって発見された、というのもほほえましいです。
タミヤに関わってきた人々のことを、なるべくたくさん紹介したいというこの本ですが、購買層の嗜好が変化していくなかでどう展開していくかということが今後の課題のようです。
活字から離れ、作る喜びからも遠ざかりつつある若者。ちまたに出回るコピー商品。「便利は不便の始まり」と考える俊作さんは、出来上がりを待つときめきも失おうとする現在から未来に向けてを考えています。模型文化をどう伝えるのか。
わたし自身はプラモデルには興味ないのですが、やっぱりすぐに既製品を求める風潮には抵抗があります。たくさんの人々が支えている文化、時代とともに変遷するのはしかたないのですが、やはり残さなくてはならないものがあると思います。
B29の模型は作りたくないという部分を読んだときふと思ったのですが、今の中学生は「ビーにじゅうきゅう」と読む子が多い。これからは戦争を知らない世代が、戦争のことを伝えていかなければならないのですね。そして、時間をかけて作り上げていく喜びも、大切にしたいと思いました。