くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「身の上話」佐藤正午

2010-01-04 02:35:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
身の上話って、わたしはべつに話すことはないなあ。特別なことがあったわけでもなく、平々凡々に生きてきたから。
このミチルって女が、だいたい頭悪そうだよね。共感できないわ。第一、本人ではなくどうして旦那さんの語りなんだろう。作者が男性だから?
そんなふうにつらつら考えていたら、はっとこの作品構成に気づいたのです。きっとそうだろうと思いながら読んだのですが、それで興が削がれることもなく、とても充実した「読書」タイムだったと思います。
佐藤正午「身の上話」(光文社)。初めて読む作家なのですが、濃密でよく計算されたいい小説でした。確かにちょっと人物は変ですが……。でも、それは伏線。文章がまたいいのです。
ふとした気まぐれがもとで、仕事を放り出したまま上京した古川ミチル。身を寄せたのは幼なじみの竹井輝夫のマンションです。ミチルの付き合ってきた二人の男、彼女に宝くじを買うように頼んだ同僚、竹井の彼女である高倉さん。彼らの関係がもつれていき、さらにミチルが宝くじで二億円を当てたことをきっかけに事態は悪い方に転がり出します。
ぼうっとしたミチルは、自分が様々なことを見逃してきたことに気づき、さらにまがまがしい怯えを感じて、一人、東京を後にします。彼女に執着し続ける男を振り払うために。
読み終わってからも、作品世界から抜け出すことができず、ぼんやりした霧の中を歩いているような気がしてきます。
竹井という男の印象が二転三転すること、エキセントリックな高倉さんの生育歴がほの見えることが、この作品の見所かな、と勝手に思っているのですが。
物語が地続きになっていて、登場人物たちは実は結構狭い世界に住んでいることもポイント? ミチルが消しゴムを盗んだのは高倉ステイショナリーなのでは? 考えすぎですか。
新年会にも初売りにも行かずに、読みふけりました。
佐藤正午、ほかの作品も読んでみます。