くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「名短篇、ここにあり」北村薫・宮部みゆき 編

2010-01-12 05:28:44 | 文芸・エンターテイメント
北村薫さんの小説解説が大好きなのです。「謎のギャラリー」(新潮文庫)とか「ミステリ十二か月」とか。
この本も、北村さんと宮部さんの解説対談が載っているというので読んでみました。「名短篇、ここにあり」(ちくま文庫)。
今はなかなか見つからない短篇を再録したアンソロジーです。
ただ、北村さんがおもしろがるほどには、わたしの興趣を引かないのですよね……。これは、「謎のギャラリー」もそうなんだけど。北村さんの話を聞いている(実際には読んでいるですが)ほうがずっとおもしろい。
今回は一作品終わるごとに解説を読み、また本文に戻るという読み方をしましたが、どうも北村さんは中心よりも「周辺」を味わうのがお好きなのではないかなと思わされました。
言い換えると「行間を読む」ということなんだと思うのですが。例えば、「隠し芸の男」。わたしはこの主人公がどうしてそんなにもへそ踊りにこだわるのか、そして彼が期待するようには部下たちはおもしろいとは思わないのではないかと思いながら読んだのです。オチの近くにある衝撃は、確かに効いていますが、どうもさらりと読み流してしまう。
でも北村さんがいうには、この台詞こそが小説に深みを与えているのですよね。そういわれてみると、もう彼の芸を受け入れるのは、上の年代の人たちだけなのかも知れないと思ったり。今までと別の側面が見えてくる。
前半で特におもしろいのは、「むかしばなし」です。結末にむけて、あの話だなというのは彷彿とされるのですが、このおばあさんの語りがすごい。真実の中にまぜこむことによってリアリティが出てくるのでしょうし、さらに何度も語ることによって熟練の味わいが出てきている気がします。
後半では「的の男」! 続きが読みたいです。連作の一部なので、ここでは伏線にあたる部分が解決のないまま残されている。隣の画家とか看護役の女とか娘の本心とか、気になって仕方ないじゃないですか!
あとは「鬼」もおもしろい。情念のようなものが、渦巻いています。
やっぱり、わかりやすい小説が好きなのでしょうね。続巻も読みたいけど、どうだろう。うーむ。
「もっと半七」も気になる……。でも、「半七」は光文社文庫で全部持っているので、ちょっと無理ですね。解説だけ読みたいな。
あと、松本清張の「誤訳」には考えさせられました。あの真相で間違いはないと思います。でも、夫人の下した選択はそれでよかったのか。七万ドルは大金かもしれません。でも、このことで彼は、唯一の翻訳者を失ったではありませんか。詩集も絶版。この後どういう手段で発信していくのでしょう。