「やわらかい手」(IRINA PALM)(2006、英・仏・ベルギー・ドイツ・ルクセンブルグ、103分)
監督:サム・ガルバルスキ
マリアンヌ・フェイスフル、ミキ・マノイロヴィッチ
この設定で、演じるのが「あの胸にもういちど」で肌の上に黒革のつなぎでバイクにまたがりアラン・ドロンのもとにかけつける役を演じた1946年生まれのマリアンヌ・フェイスフル、となると世代によってはそれだけで見てみようと考える人も多いだろう。
文化村ル・シネマでもそれらしき人たちは多かった。
ロンドン郊外が舞台、孫の男の子が難病で近いうちオーストラリアに運んで手術を受けさせないと危ないのだが、その資金がなく、息子夫婦も策がない。フェイスフル演じる独り身の祖母がロンドンで職を探しているうちになんと勘違いして風俗店に入る。この歳で稼ぐことは出きないはずだが、このオーナーがなかなかの目利きで、手を見せろと言いつかんでみて、日本から取り入れた(?)という手だけで男をいかせる役につかせてみると、この「やわらかい手」が天性の「神の手」、そんなこととは知らない客がたくさんつめかけ手術費用稼ぎを家族に内緒で続ける。
彼女は店でイリーナという名前にされ、そのイリーナの掌が原題。
と、こういう話を考え出したところで、もう映画としては成功したようなものと普通は考える。ところがこの大筋は早めに明かされてしまい、そのあとは、家族、友人との「内緒」がどうなるのかに焦点は移り、彼女とその職場との関係も微妙なところで予想外の展開をしていく。
だから、時々退屈になる、と思うとなるほどと思わせる出来事があり、興味をつないでいく。それはこの監督の腕だろう。カメラは無難で、この話ではあまり刺激的な撮り方は出来ないかもしれない。
フェイスフルはもう昔の面影はなくなってしまったきれいだった人という感じは残していて、この不器用な女性にうまくはまっている。
風俗店オーナー役のマノイロヴィッチは、存在感もありこの人無しではこの話は成り立たなかっただろう。難をいえば、見かけよりいい人という感じが最初から少ししてしまうことだろうか。
ある意味で、この二人の任侠と仁義の物語である。
マリアンヌ・フェイスフルは、「あの胸にもういちど」以降、映画出演は極めて少なかったが、最近意欲的になってきているようで、そういえば今年見た「マリー・アントワネット」では女帝マリア・テレジアを演じていた。