エレーヌ・グリモーがブラームスのピアノ協奏曲第1番を弾いた映像が今日NHK BS-2で放送された。
NHK交響楽団のアメリカ・ツアーjで、2006年10月14日にロス・アンゼルス ウォルト・ディズニー・コンサート・ホールで演奏されたもの、指揮はウラディーミル・アシュケナージ。
これだけの演奏を映像もついて聴くことが出来るとは。
長年得意にしている曲とはいえ、今回この曲を弾いていくうちに彼女が掴み取ったもの、そして表出したもの、それはブラームスが晦渋とか渋いとかいわれながら時に見せる他の作曲家にない輝きだ。
第1楽章、ピアノが入ってきてしばらくは、まだよくオーケストラ、そして楽曲に対するこの日のつかみが出来きれない、という状態がある。前にN響とシューマンをやったときも最初はこのような状態だった。スタインウェイもまだよく鳴らない。
でもそれは次第になくなり、この曲に対面して彼女の中に生まれてきたもの、それが捕らえられ、そしてこの日はそれが非常に豊かで輝かしいものであることがわかってくる。
スタジオ録音では別のアプローチもあるだろうが、ライブであれば、曲への入りかたはこういうものなのではないだろうか。彼女はそれを通している、そう考えてこれからも聴いてみよう。
さて、第2番と比べこの曲の録音はそんなに多くない。その中、男性ピアニストに比べても彼女の演奏は柄が大きい。曲のスケール感をよくとらえているからだろうか。ピアノ自体も第2楽章の途中あたりから本当によく鳴っていた。
この日は心身ともにコンディションも良かったにちがいない。彼女の魅力的なショットは左側からであるが、それは承知なのか、うまいカメラアングル、そして少し前痩せすぎではと気になったのも今回は少しふっくらとして、仕草、表情ともやわらかさが見られた。終盤、アシュケナージの肩越しに見える彼女は無意識にかこちらから見て時計回りに頭を回していることからその感興がわかり、また興奮してくると出る声がマイクにとらえられていた。これもライブ・ビデオの醍醐味である。
もちろんアップの髪がは映えるきれいな横顔、神は二物を与えることもある。
最近はピアニストがコンチェルトを以前ほどは積極的に弾かなくなったと思うけれども、彼女は違う。それもコンクール・ピアニストの技量披瀝などとも違っていて、別の面でいくつかのコンチェルトの魅力とスケール感を引き出してくれているのはうれしい。
今回は本当にエレーヌに感謝。
第1楽章の後の拍手、そして最近日本でもあまりない、曲の最後の音が消えないうちの大喝采も、今回はかの地の人々の素直な反応だと、まあ許そう。
なお、このコンサートではこれが最初の曲で、そのほかは、ドビュッシーの交響詩「海」、エルガーの変奏曲「なぞ」。