ダニエル・バレンボイムがピアノを弾き、ベルリン・フィルを指揮したモーツアルトのピアノ協奏曲第22番 変ホ長調 K.482を、NHK教育TVの放送(9月17日)・録画で聴いた。
バレンボイムはこのモーツアルトのコンチェルトを指揮もあわせて演奏するのが得意だが、なかでもこの22番はぴったりである。
しかし、最初の録音から35年経ってまたこんなにいい演奏が聴けるとは、うれしいことだ。
2006年5月1日、プラハのエステート劇場で行われたベルリンフィル・ヨーロッパ・コンサートで、オーケストラは二管編成、ピアノはもちろん昨今のピリオド楽器ではなく立派なスタインウェイ。
この曲は20番台のほかの協奏曲(名曲ぞろい)とちょっと違い、終始中から強あたりの音でぐいぐいと推進していくのだが、だからといって単純、陰影がないなどどいうことはなく、むしろ音楽はよりいきいきしており、飽きることがない。
これは勢いで演奏してしまえばいいように見えて、そうでもなく、実は細心の注意と緊張がもとにないといけないのだろう。結果としてバレンボイムの指揮、ピアノとも見事な実現で、ちょっとこういうモーツアルトはなかなか聴けない。
それでいて第3楽章フィナーレの前は、充分にテンポを落とし力と感情を蓄えるというほかの曲とも共通の定石は踏んでいる。この曲だとそれが一層効果的だ。
バレンボイムはこの日、交響曲も第35番「ハフナー」、第36番「リンツ」を振った。もっと後の交響曲に比べるとコンサートでこの2曲では地味と予想したけれども、彼の指揮はコンチェルトの特徴と同様、単なる力強さではなく弾むような生き生きした感じが最後まで持続し、特に「ハフナー」はこんなに面白く聴いたのははじめてである。
他にホルン協奏曲第1番、ホルンは団員のラデク・バボラク、名前・風貌と会場の感じからいって地元の人だろう、これも楽しかった。
ところでバレンボイムは1971年イギリス室内管弦楽団の指揮とピアノで22番を録音したとき、カップリングはピアノと管弦楽のためのロンド二長調 K.382だった。この誰でもきいたことがあるメロディーから始まる変奏曲が22番以上の名演で、今でも聴いていると体が動くと同時に必ず顔がほころぶ。音楽の神秘に触れるといっても大げさではない。