クナッパーツブッシュ/ワーグナー名演集(DECCA)
(神々の黄昏、パルシファル、ワルキューレ、トリスタンとイゾルデ)
ハンス・クナッパーツブッシュ(1888-1965)指揮 ウイーン・フィルハーモニー
LPでよく聴いた後、擦り切れて処分したのだが、先日タワーレコードで1000円盤(国内)を見つけ、久しぶりに聴いた。
やはりこの世界に入りだしたときのものであり、ひとつひとつの細部がずしりと来る。その後いろいろな演奏を聴いた後でも、やはり格別だ。
最初の神々の黄昏、「夜明けとジークフリートのラインへの旅」、「ジークフリートの葬送行進曲」、ここには人間が持うどうしようもない悪、罪、それはこの楽劇でギービッヒ一族ばかりでなく、ジークフリートそのもののつまり人間の中に潜む悪、世界の意思に潜む悪、そういう悪を雄弁に表現する響きがある。
それをこの洗練されたウイーン・フィルでこのように出して見せたクナッパーツブッシュ、見事というしかない。このオケだと通常もっときれいごとになってしまう。
この人、気難しいという逸話が多く、演奏も晦渋というイメージを持っていたのだが、これは当時から別であった。1962年「パルシファル」のバイロイト・ライブ録音も最近はじめて廉価版CDで聴いたが、ブーレーズ、カラヤンと比べても充分明快なものである。
ワルキューレ最後の「魔の炎の音楽」(独唱ジョージ・ロンドン)も、充分にその後を予言する響き、トリスタンとイゾルデの「愛の死」(独唱ビルギット・ニルソン)、男は本当に女にはかなわないということをこれほど実感させるものはなく、最後の部分の息の長さは大変なものである。
1950年代後半の初期ステレオ録音。このころのDECCAは本当にいい仕事をしている。日本で最初キングから出たこれら、最近どうしてか、出てくる数が少ないのは残念だ。