「嫌われ松子の一生」(2006年東宝、130分)
監督:中島哲也、原作:山田宗樹「嫌われ松子の一生」
「下妻物語」で楽しませてくれた中島哲也である。
これは基本的にミュージカル仕立てであり、松子とはほとんど面識のない甥の笙(瑛太)を通して物語が語られるが、この形が日本のミュージカルとして無理なく入っていけるものになったひとつの要素とも考えられる。
松子は昭和22年福岡県生まれ、よく出てくる福岡のデパートはCGだがうまい使い方である。私も小学生になる前後に小倉にいたから何度か博多に行った時に訪れていたかもしれない。
音楽は周りで自然に演奏されていると思うと、いつのまにか物語りのキャスト本人が歌っているというように導入が巧みである。それぞれの時代の雰囲気とマッチした既存の曲、新曲、そして松子が教師であったことからくるのか賛美歌の使い方もぴたりとはまっている。
BONNIE PINK、AIなどの歌もいい。女刑務所の場面などは「シカゴ」を意識したかもしれないがこっちのほうが上だろう。
下妻と同様、画面の切り替え、テンポは快調、ごみだらけで汚い部屋の場面も多いが、逆光をうまく使っている。
次から次へと出てくる松子の男、多くはヒモだが、配役がいずれもぴたりでよい。なかでも伊勢谷友介がいい。
終盤もうすこし編集で冗長度をなくして10分くらい短く出来たらもっとよかっただろう。
また原作との対応でどうなのかはよくわからないが、結末(松子の死)の描き方は監督も苦労したのではないか。これは「下妻物語」の任侠道的カタルシスというわけにはいかない。
中谷美紀、この転落するほど悲しくも面白く生きられた松子を演じ、調子はいいが最後まで悪くなりきらず、教師崩れも残っているのは見事。歌のバランス感もいい。