メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

舞踏会の手帖

2020-03-04 17:17:33 | 映画
舞踏会の手帖(Un Carnet de Bal、1937仏、130分)
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
マリー・ベル(クリスティーヌ)、フランソワーズ・ロゼー(ジョルジュの母)、ルイ・ジューヴェ(ピエール)、アリ・ポール(アラン)、ピエール・リシャール・ウィレム(エリック)、レイミュ(フランソワ)、ピエール・ブランシャール(ティエリー)、フェルナンデル(ファビアン)
 
夫を亡くし悲嘆に暮れているクリスティーヌが、20年前に舞踏会にデビューしたころの手帖に書かれている男たちを次々と訪ねていき、その出会いと別れを振りかえりながら、今の自分自身を確認していく。それを七話(?)のオムニバス形式で綴ったもの。
 
死んでしまったものもいれば、ピエールのようにキャバレーを経営しながら犯罪に手を染めるもの、音楽家から神父になって合唱指導をしているもの、山岳ガイド、小さい町の町長に収まった政治家志望者、精神を病んだ医者、気のいい美容師など、それぞれヴァラエティに富んだエピソードを見せてくれる。クリスティーヌ自身そしてデビュー舞踏会は上流階級だが、訪ねられる男たちはそれほどでもなく、社会的なポジション、職業は具体的でイメージしやすいものである。
もっと鬱々としたものを想像していたが、生きることに案外肯定的であり、クリスティーヌにいい決断、結末を与える結果になっている。
 
クリスティーヌのマリー・ベルは、16歳で舞踏会デビューだから、役としては30代後半、訪ねられる男たちからすれば気分のいい美しさである。
 
男たちの風貌は、当初から年もたっているとはいえ、そう二枚目でもない。それでも神父のアリ・ポール、美容師のファビアンなど、存在感と味を出している。ピエールのルイ・ジューヴェ、有名な割にあまり見ていないのだが、ここで見るようにちょっと悪役向きなのだろう。
 
この映画、ずいぶん昔から存在は知っていて、私の若いころもテレビで放送されたことはあったけれども、古臭いイメージがあって、ちゃんと見てはいなかったと思う。
 
しかしこうしてみると、デユヴィヴィエの演出はなかなか見事で、カメラワークも冒頭のダンスが始まるところ、終盤のちょっと庶民的になってしまった舞踏会のとの対比などをはじめ見事で、なかなか飽きずに見ることができた。
それにしても、あの雪崩のシーンはどうやって撮ったのだろう。
 
この映画、少し前から私が歌っているスタンダード・ナンバー「What's New?」を思い起こさせる。男たちそれぞれに対するWhat's New?であると同時に、その問いの流れからクリスティーヌ自身へのWhat's New?にもなっている、と言ったらいいだろうか。
 
この映画が想像していたより楽に見られたのは、その画質にもある。最初のタイトルのところで、フランス国立映画センターによる「修復とデジタル化」とあった。
 
私がデジタルアーカイブの推進をしていたころ、映画についてはフィルムの傷も作品のうちとして扱い、安易に修復してはいけない、とかなり厳しい議論があった。その一方、マスターフィルムの保存は別として、多くの人に見てもらうためにはデジタル技術の活用にも力を入れようとしていた。
今回の作品、家庭のテレビ画面で気持ちよく見ることができた。これでいいのだと思う。
 
なお、私は少しフランス語が理解できるが、この映画、とてもきれいなフランス語で、聞き取りやすい。この時代だからだろうか。

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