トーマス・アデス:歌劇「テンペスト」
原作:シェイクスピア、脚本:メレディス・オークス
指揮:トーマス・アデス、演出:ロベール・ルパージュ
サイモン・キーンリーサイド(プロスペロー)、オードリー・ルーナ(アリエル)、アラン・オーク(カリバン)、イザベル・レナード(ミランダ)、アレック・シュレイダー(フェルディナンド)
2012年11月10日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2014年1月WOWOW
原作は読んでいない。また舞台でも見ていないし、オペラもいくつかあるはずだが、最後まで見たものはない。
シェイクスピアのこういうものは鑑賞というスタイルではなじみにくいということが、少なくとも私にはあるようだ。あの「真夏の夜の夢」も、幸運にも若い時にピーター・ブルック演出の日本公演を見ることができたおかげで、その面白さがわかったが、テンペストもこれと同様に、おとぎ話のような背景と妖精や妖怪(creatureと言っていた)が活躍するからわかりにくい。
これは21世紀になってからアデスが発表したもので、オペラにすることになれば台詞は少なくなるが、オークスの脚本はそれでもわかりやすくうまく作られているし、音楽、演技、見せ方もおそらく現代人が入っていきやすいものとなっているのだろう。
こういう古典をベースにするときにはいろいろな考え方があるだろうが、シェイクスピアが生きていた当時の観客にはあれでかなり通俗的で入っていきやすいものだったのだろうから、このようなものでいいのかもしれない。
そして演出はあのルパージュである。サーカスも出てくるし、このミラノとナポリの政争を背景とした話で、前半は漂流して流れ着いた島、後半はスカラ座のバルコニー、それも始めは映画のセットの裏側みたいなパイプが丸見えのもの、フィナーレになると豪華なものという凝ったやりかた。
妖精アリエルと妖怪カリバンはそれぞれプロスペローあるいは作者の意志と本能を具現しているというが、特にアリエルはほとんどファルセット(夜の女王などにくらべて出ずっぱりの)で、その衣装、メイクとともに怪演だし、カリバンもよく理解できる。
キーンリーサイドのプロスペローはやはり見栄えがするし、歌唱も納得するものである。ただこのオペラ、娘のイザベルの恋にあまりにも簡単に降参してしまうこと、そうなる予定調和が比較的早くから見えてしまうところは、今一つ。
イザベルとフェルディナンドの二重唱は、ミュージカルを見ているみたいだが、これはこれでいいのだろう。
英語のオペラはあまり見ていないが、これは比較的よくききとれる。たとえばブリテンの「ピーターグライムズ」とくらべて。
もっとも、イタリア語やフランス語と比べると、英語というのは音楽への乗りという点ではあまり向いてないと思うけれど。