「ピンクの豹」(The Pink Panther 、1963、米、115分)
監督:ブレイク・エドワーズ、脚本:モーリス・リッチリン、ブレイクエドワーズ、音楽:ヘンリー・マンシーニ、衣裳:イヴ・サンローラン
タイトルと音楽はよく知っていても、見たことがなかった映画の一つ。
ああ、こんな映画だったの?というのが実感で、ドタバタコメディの典型、当時はそこそこ面白かったのかもしれないが、コメディとしての面白さはうすい。
この手のものではその後出てきた、例えば「裸の銃(ガン)」、とか「ホットショット」などのシリーズものの方が、下品とはいえはるかに楽しめる。
がしかし「ピンクの豹」にあってこれらにないのは、例えば同じ上流階級を扱っていても見ているとわかる贅沢感、きもちのいい上質感である。
例えば舞台はコルチナ・ダンペッツォ、オリンピックも開催されたスキー・リゾートで、変なたとえだが、カラヤンの写真、映像などでなじんでいるサンモリッツの雰囲気を思わせる。
そして、衣裳はイヴ・サンローラン。一般に60年代の映画に登場する衣裳は当時のパリ・ファッションが多くて楽しいが、これはとりわけ素晴らしい。さすがである。
調べてみると、サンローランは先ごろ亡くなるまでにそんなに多くの映画を手がけてはいない。手がけた映画にはそれなりの女優が出ていて、この映画のクラウディア・カルディナーレ、そして「別離」のカトリーヌ・ドヌーヴ(1969)(これは当然)、大好きなロミー・シュナイダーの「夕なぎ」(1972)もというのはうれしい。
デヴィッド・ニーヴン、ピーター・セラーズは今から見るとこのくらいはやるだろうという先入見はあるから、そう驚かない。二人の間でいそがしいキャプシーヌは適役、ジョン・ウェインを手玉にとる「アラスカ魂」(1960)くらいしか記憶にないけれど。
出ているのを知らなくて、うれしい誤算は王女役クラウディア・カルディナーレで、あの「山猫」以来気になっていたしゃべると出てくる下品な調子が、この役でもいきていて、特にファントム(ニーヴン)にシャンペンを飲ませられ、虎の毛皮を抱きながらくだをまき続けるシーンは秀逸だ。こんな才能があるとは思わなかった。彼女が王女でなかったら、この映画の魅力は半減しただろう。
そしてヘンリー・マンシーニの音楽は、時代をこえ、世代をこえ、、、
あらためて感心したのだが、ブレイク・エドワーズとのコンビが多い。例えば「ティファニーで朝食を」、「酒とバラの日々」、「ピーター・ガン」、、、
考えてみると、戦後のアメリカ映画で、フレッシュな映画音楽を数多く書き、ヒットして長く残っているということでは、この人とバート・バカラックが双璧だろう。
ここであらためて聴いてみると、マンシーニのベースはビッグバンド・ジャズで、それに対しバカラックはもう少し小編成の多様な効果も混じり、そして中南米の要素を取り入れているといえるかもしれない。
また両方に、多分この世代のアメリカの人たちに多いけれど、フランスのラベルとか六人組の人たちの流れが、雰囲気として感じられる。
細かいこと二つ
ニーヴン扮するリットン卿(ファントム)がドン・ファン(ジュアン、ジョヴァンニ)に擬せられていることの是非が王女との間で話題になる。そう、だから壁を登って部屋に入るシーンもある?
そうなると終盤の仮想パーティでファントムを追うクルーゾー警部(セラーズ)の扮装は騎士長ということだろうか。
シャンペンを飲む場面が何度もあるけれど、グラスは広口のもの。そう我が国の結婚披露宴で使われ、西洋かぶれの人たちが、あちらではシャンペングラスは縦長のフルートというのが基本、なんていっていた、あれ。でもこの一流ホテルでは全部広口。時代、地域でちがうのだろうか。