メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

マスネ「ウェルテル」(メトロポリタン)

2015-01-07 21:48:08 | 音楽一般
マスネ:歌劇「ウェルテル」
指揮:アラン・アルタノグル、演出:リチャード・エア
ヨナス・カウフマン(ウェルテル)、ソフィー・コッシュ(シャルロット)、デイヴィッド・ビズィッチ(アルベール)、リゼット・オロペーサ(ソフィー)
2014年3月14日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2014年12月WOWOW
 

作品も上演も文句なしだった。
WOWOWでメトロポリタンの映像を見ることが出来るようになって数年、数あるオペラでもそこそこ有名で評価が高い、また一応見ておきたいものはほぼ見尽くしたと思うのだが、唯一この「ウェルテル」だけは未だだった。しかもレコード、CDで音だけ聴いたこともない。
 

とにかく望みがかない、しかもカウフマンのウェルテルだからかなりいいとは予想できたが、失礼、それ以上だった。
まずこの作品、ゲーテの原作から約100年、もっとも原作を読んではいないのだが、今回みるかぎりこれはやはりマスネの時代にぴたりとフィットしたものなのだろう。前半はウェルテルの一方的な想い、後半になるとシャルロットの中の情念が強くなってきてクライマックスとなる。ワーグナーがこれもやはり古代の題材を彼の頭の中にもってきた「トリスタンとイゾルデ」に近い禁断の恋ではあるが、「ウェルテル」では、母親の遺言にあった相手と結婚し、父親からもいろいろ言われるシャルロットだが、イゾルデほどの締め付けという感ではない。だから作曲者はそして見る者はより感情移入しやすいと言えるだろう。
マスネの音楽は充実していて、オーケストラも聴きごたえがある。
 

カウフマンのウェルテル、情熱詩人の歌唱も、もちろんあの姿も、男の私でも見ていて飽きない。リリック・テノールとしては少し強い声なので、ドミンゴほどではないが、表現が強すぎるかなというところもあるけれど、後半なんかはこっちの方がいいだろう。これを聴いていると、やはりこのひと、ワーグナーではローエングリン、パルシファル、ジークムントあたりがよく、ジークフリートはやらないだろうし、その方がいいと思う。この声は大事にしてほしい。
 

コッシュのシャルロット、前半のどちらかというと貞節が勝っているところから後半だんだんそれを脱ぎ捨てていく変化の表現が素晴らしい。また声質、容姿がそれにあっている。ヨーロッパではこれも当たり役でカウフマンとも共演しているらしいが、METは初登場だそうだ。
 

シャルロットの妹ソフィー役のリゼット・オロペーサが姉と対照的な明るさと健気さをうまくだしている。実はウェルテルを慕っていることもこちらによくわかる。いくつかの演目でズボン役をやってもいいかもしれない。
 

指揮のアルタノグルは30代後半の新世代らしいが、音楽がドラマにより添っているところなどしっかり振れている。
 

演出のリチャード・エアは映画監督でもあるという。あの「アイリス」(ジュディ・デンチ、ケイト・ウィンスレット)の監督ときいて、なるほど、ちょっと濃い表現が多いかなと思った。それは話の筋としてはいいが、舞台は場面によってはもう少し明るくしてもいいのではないだろうか。
 

ところで、全曲を聴いたことない「ウェルテル」であったが、30年くらい前だろうか、この役でたいへん評価が高かったのがアルフレード・クラウス(1927-1999)で、かなりレパートリーを選別していたように思う。日本にもファンは多く、ソロのリサイタルもあったはずだが、聴いておけばよかった。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 川瀬巴水 展 | トップ | 歌舞伎座 初春大歌舞伎 »

音楽一般」カテゴリの最新記事