「ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス、美の女神の系譜」
(国立西洋美術館、3月4日~5月18日)
ウフィツィ美術館所蔵のティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」(1538年頃)を中心に、ギリシャ・ローマ時代からの多用な出展でこの女神、ヴィーナスの意味をあきらかにしていこうとするものである。
記号学、図像学、イコノロジー、といったものの一端が少しは理解出来たようだ。
こうしてみると、裸婦というものが、神話のシーンを借りることにより擬似的な衣をまといながら、見たいものを見ることが出来るようにする、といった側面を持っていたことがよくわかる。
こうしてみると、今回は「ウルビーノのヴィーナス」以外、特に絵画では単独で鑑賞に堪えるものはほとんどない。やはりこの作品は絵画として優れている上に、このような絵がプライヴェートな目的のために注文されるようになるさきがけとなったものなのだろう。それは解説からもよく理解できる。
もう神話的な象徴はほとんどなく、この屋敷を表現する右の背景には召使が持つもの、窓にある常緑樹ミルト(女神、結婚)と手前にいる犬(忠実、そして眠っているのは見る人と親しいという意味とか)、そして左半分は後ろがカーテン状であり、ヴィーナスの上半身が完全にプライヴェート空間に属していることが示される。
右手からこぼれるバラ、左前方に向けられた瞳、ゆったりとした肢体、こうなるとこれは裸体を見るという目的で注文されたのか、あるいは寝室に置かれ若夫婦が子供を授かるよう期待をこめたもの、ということなのか。
やはり名作で、じっくり見るにたえる。またゴヤやマネも確かに連想させる。
そういえば同じウフィツィイのボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」を明らかに背景に持つ絵が先の「モディリアーニ展」にもあった。
ミルトはドイツ語のミルテだろうか。シューマンの歌曲に「愛らしく、やさしいバラやミルテで」(リーダークライス作品24の9、詩はハイネ)がある。