プッチーニ:歌劇「外套」
指揮:リッカルド・シャイー、演出:ルーカ・ロンコーニ
フアン・ポンス(伝馬船の船長ミケーレ)、パオレッタ・マロック(船長の妻ジョルジェッタ)、ミロスラフ・ドヴォルスキー(ルイージ)
2008年3月6日 ミラノ・スカラ座 2014年2月 NHK BS Pre
プッチーニが晩年書いたいわゆる三部作の一つである。これらはいずれも1時間弱で、まとめて上演されることが多いようだ。録音で聴いたことはあるが映像ははじめてである。初演は1918年。
数人を雇っている運送船の船長とその若い妻、船を住居としている。妻はこの生活に飽きており、別の生活を夢見ている。そこに臨時雇いの船員ルイージが現れる。
マロックのジョルジェッタが出てきたときから、そのワンピースと動くしぐさでドラマのその先を想像させる。話はかなり想像した通りに進むのだが、プッチーニの音楽は彼の音楽のよさを保ちながらモダーンで、この20世紀的なドラマを描き出す。「ボエーム」のメロディもこのときに流行っているという設定で流れてくる(これはモーツアルトのオペラでもよくある)が、ボエームの話と音楽も突き詰めるとここまで来るかもしれないという、おそるべきプッチーニのメッセージである。
話の細部はもちろんちがうけれど、見始めて何度か頭に浮かんだのは「ヴォツェック」(1925年 ベルク)である。時期もそんなに違わない。
船長のポンスはフィナーレで思った以上の力強さ、怒りを見せ、それが悲劇を際立たせる。妻役のマロックは船長をここまで持ってきてしまう見事な演技。ドヴォルスキーはもう少し優男の雰囲気があればとも思った。
リッカルド・シャイーが指揮してくれたことは幸いだったと想像する。こういう現代のセンスと歌がうまく同居している。
なおフアン・ポンスは私が持っている1991年の録音でもミケーレを歌っている。年長者の役だから現在も通用すると思うが、タフな人である。ここでのジョルジェッタはミレッラ・フレーニ、オーケストラはバルトレッティ指揮フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団である。