メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

鴨長明 「方丈記」

2020-11-06 13:44:30 | 本と雑誌
方丈記:鴨長明  現代語訳:蜂飼耳 光文社古典新訳文庫
 
鴨長明(1155-1216)がしるした「方丈記」(1212)は、「枕草子」、「徒然草」、「平家物語」などと並んで、高校の古文でよく使われていた。記憶では少なくとも前半は読んだように思う。そう長いものではないから教室の外で後半も読んだかもしれない。
 
今回、蜂飼耳による現代語訳の存在を知り、これはぜひということで読んでみた。原典も掲載されているが、せっかくなので、それはいずれかなり後にしようと思う。
 
あらためて読んでみると、この変化が多かった、荒れた時代に対する見方、身の処し方、そしてこれは記憶にないのでやはりこの部分は読んでいなかったのかなと思う彼の来歴にかかわる部分など、多彩であり、一人の人間の一生のいろいろな側面を考えさせられた。
個々については、一方的な解釈になりがちだから、ここには書かない。
 
さて訳についてだが、これは古典を正確に解釈、解説するためだけでなく、文章としてすぐれた流れ、リズムが感じ取れるものである。そうでなければこの詩人が訳した意味がない。
 
読んでいて、平明さ、読点の入れ方など、おそらく詩作にも通じるような仕事であって、その結果だろうか気持ちよく流れる。
 
原典添付の他、長明作の和歌(新古今和歌集所収)、「発心集」もあり、訳者の解説もあって、これらにより、長明という人間について、いくつかの側面を知ることができた。
 
訳者による「エッセイ」は通常の解説以上のもの。またこの時代の災害を知るための地図、また方丈の図版などもあり、コンパクトでありながら充実した一冊となっている。
 
ところで、この本にはおもしろいでかたちでたどりついた。
少し前に書いた「旅のつばくろ」(沢木耕太郎)で鎌倉に行った時の記述に、鶴岡八幡宮の階段の左手にある銀杏の大木が出てくる。ここで源実朝が暗殺された。銀杏はしばらく前に強風で倒れてしまい根元だけになっていて、私もこの1月に参拝した時に見た。
 
そこで沢木が書いていることには、ここを訪れる数日前にこの現代語訳を読み、鴨長明は実朝の和歌の教師になるべく京都から鎌倉を訪れていたが、果たせず、不運をなげいた、ということを知り、もしそうなっていれば「方丈記」という名作は書けなかったかもしれない。
なんという縁だろうか、これは読んでみようという気になるというものである。
 
数年前、知人から蜂飼耳による絵本を教えられ、それを絵本読み聞かせで使ってみることになり、その間に詩壇評など日経で時々文章、名前を見るようになって、詩集(現代詩文庫)も読んでみた。沢木耕太郎はよく読んでいたとはいえ、「旅のつばくろ」はたまたまなんとなく手に取ってみたわけで、こういういくつかの要素がつながって「方丈記」というわけである。
それに今年はいろいろあって「方丈記」はなるほど思わせる出会い、再会である。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする