メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

青い絵具の匂い(中野淳)

2012-11-07 19:28:24 | 本と雑誌

「青い絵具の匂い 松本竣介と私」 中野淳 著 中公文庫

 

松本竣介の絵は好きで、何度も企画展、常設展で見てきたが、中野淳という人は知らなかった。松本よりだいぶ年下の画家で、戦前から松本の死まで近くにおり、画家として私淑していたといってよい。

 

二人の気持ちのいい関係を背景に、松本の言葉、周囲の画家たち、家族などの具体的な姿が描き出されている。特に松本の絵画に対する考え方、気構えといったもの、普段の姿など、意外な面もある。 

 

耳が不自由だったり、生前はそれほど評価されなかった、抵抗の画家とでもいうイメージなどが一般に伝えられているけれども、本書を読むとそういうことより、むしろあくまで絵画に集中する、そして絵画で勝負するという人だったようだ。服装なんかも当時としてはずいぶんしゃれていた、ちょっと気取っていたところもあった、というのも意外である。

 

したがって著者は松本に対して皮肉な見方はしていない。していないけれども、こうして読むと、松本という人間の陽の面に対して、よはりあの洲之内徹が「気まぐれ美術館」で書いた面もあったのではと、思われる。そういうところが面白い。「生きている画家」という文章、そして「立てる像」、「画家の像」、この辺りの事情、そして藤田嗣治との関係、岡鹿之助との関係、洲之内の文章を再度読んでみたい。

 

あの絵具の独特なのり、卓抜な線など、絵の特徴もよく説明されている。

 

戦中から死の直前まで、生活のために、その後のZ会のような通信添削を事業としてやっていたというのには驚く。そういう必要がなければ、36歳で夭折することもなかっただろうに。


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