メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

グルック「オルフェオとエウリディーチェ」(メトロポリタン)

2012-11-30 21:26:33 | 音楽一般

グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」

指揮:ジェイムズ・レヴァイン、演出・振付:マーク・モリス

ステファニー・ブライズ(オルフェオ)、ダニエル・ドゥニーズ(エウリディーチェ)、ハイディ・グラント・マーフィー(愛の神)

2009年1月24日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場  2012年11月 WOWOW放送録画

 

いろんな形で取り上げられているおなじみの神話をもとにした脚本だが、ここではオルフェオが誓いを破って振り返り、エウリディーチェは再び黄泉の口に帰ってしまうが、その愛の強さに感じいった愛の神がエウリディーチェをよみがえらせるというハッピーエンドに変更されている。

 

話の起伏が振り返るか我慢するかというところだけだから、劇場にかけるのは簡単ではない。グルックのこの作品は、全体で1時間半弱、通しで演奏される。番組の冒頭でレヴァインが、長さはワーグナーの一幕にすぎないがその全体に匹敵する内容だと言っていた。

 

オルフェオが冥界に下りていくと、全体の語り部は合唱になるのだが、バルコニーに並ぶ合唱の人たちは過去に死んだ有名な人たちの扮装をしていて、変な言い方になるが現実味がある。

そして、かなり長い時間ある楽器演奏のみの部分で出てくるバレエの群舞がいい。この時代の器楽は舞踊曲の形になったものが多いから、視覚的に不自然でないし、試練に挑むオルフェオの感情を表現したり、元気づけたりするものとして、見ているこちらも引き込まれていく。

このあたりマーク・モリスは成功しているといっていいだろう。ダンサーの衣装は現代の都市のもので、どこか「ウェストサイド物語」と彷彿とさせる。故ジェローム・ロビンスが振付しても面白かっただろう。

 

歌手で大変なのはオルフェオで、作られた当時は男性のカストラートを想定していたそうだが、今はそうもいかずたいていはメゾ・ソプラノで今回もブライズが歌っている。この人、男に比べても立派な恰幅、出ずっぱりだからワーグナーのヒロインみたいなものだが、見事に歌いきっている。この高さでも声だけ聴くとちゃんと男に聴こえるのは、作曲の妙か、歌唱の技か?

 

グルックはバッハとモーツアルトの間あたりに生きた人である。この作品の有名なアリア以外あまり覚えていないが、今回こうして聴くと、あの偉大なバッハも劇場音楽は無いに等しいし、モーツアルトのオペラと比べても、この作品はまったくひけをとらない。愛の試練ということで「魔笛」を思い浮かべるが、私はこっちの方が好きである。「魔笛」は話を欲張りすぎた感じで、何度も書いたように、大嫌いなザラストロをかろうじてパパゲーノが救っているわけだが、「オルフェオ」は歌もそしてオーケストラだって負けていない。

 

そのオーケストラ、やはりこういう舞台であればレヴァインが振ったのはよかった。これがウィーンやザルツブルグあたりだと、もっと古楽系の人がやるんだろうが、グルックが今日の劇場でもこれだけ訴えかける力を持っていることがわかってくるのは、やはりレヴァインだからだ。

 


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