メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

二十四の瞳

2011-04-06 22:24:15 | 映画

「二十四の瞳」(1954年松竹、156分)
監督・脚本:木下恵介、原作:壺井栄、音楽:木下忠司
高峰秀子、笠智衆、天本英世、夏川静江、浦辺粂子、田村高廣、清川虹子
 
2007年のデジタルリマスター版をNHKが放送したもの。
存在は知っていても、見るのははじめてという映画。公開されたのは昭和29年、私の年齢からすると学校から集団で映画館に見に行く、あるいは家族で行くというのは微妙なところで、教育的な映画であればもっと子供向け、そうでなければ時代劇かディズニーといったところだったのではないか。
 
その後、評判の映画だから、名画上映、TV、ビデオと機会はあったはずだが、ものごころついてしまうとむしろ敬遠してしまうというという状態でここまできてしまった。
BSでデジタルリマスター、松竹とIMAGICAの事業は知っていたから、見てみようと思い、この大震災でこの映画、泣けてしまうかと思ったら拍子抜けである。
 
とにかくテンポがのろく、細かい場面は子どもに合わせた低いカメラアングル、子供たちの演技、うまく被せた唱歌、アイルランド民謡などでよくできているものの、NHKで毎日やっている朝の連続ドラマをつなぎ合わせたような進行である。
 
もちろん戦争の前、途中、そして後が描かれていて、その影響、犠牲は悲しいものではあるけれども、国内海外のドラマと比べても、特にどうということはない。それに瀬戸内海の島であり、それは美しいままである。人間の消息、その悲劇はもちろんあるわけだが、出征、遺骨の帰還、家族の哀感、それらで描く戦争観、反戦思想は、今見ると作り手の観念的なものとならざるをえない。
 
それは壺井栄の原作、昭和29年という時期、日本のインテリ主流の思潮からすると無理はないともいえるけれど、その後ながく残る映画としては、つくりが物足りない。
 
けなげな子供たちと唱歌の懐かしさで見ることもでき、ミュージカルといえないところもないが、それもあの「菩提樹」、「サウンド・オブ・ミュージック」のパワーに欠ける。この二つは同じ原作のはずで、確か前者は公開時に映画館で見た記憶がある。
 
高峰秀子はどうもあの声と口跡が苦手なのだが、それがこの映画では赴任してから継続するこの舞台での彼女の居心地の悪さにマッチしていた。あれでよかったのだろう。
 
デジタルリマスターは、こうして広く見てもらうにはいい出来になっているようだ。だからといってオリジナルはオリジナルで、フィルムアーカイブとしてキープしなければならないが。
それにしても、昭和29年でモノクロというのはむしろよかったのかもしれない。それほどこの完成されたモノクロは威力がある。


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