メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ゴーギャン展

2009-09-03 22:35:31 | 美術
ゴーギャン展」(東京国立近代美術館、7月3日~9月23日)
 
ポール・ゴーギャン(1848-1903)をまとめて見たのは始めてかもしれない。こうして見ると、その経歴、生涯、タヒチ、といったものがかなり特異な画家であり、美術史上でも目立った存在であるというこれまでずっとあった先入観が薄れ、幾分落ち着いて見える。
こっちが歳をとったせいかもしれない。
ボストン美術館のものが中心だが、ブリヂストン、大原、ポーラなど日本の美術館からも集められている。
 
1882年から晩年までの作品が並ぶなか、1888年の「洗濯する女たち、アルル」あたりから画風が変わったというか確立したといっていいようだ。これは後姿が並んだいい絵だけれど、輪郭線が明確に出ているのは日本の影響だろうか。
 
タヒチの女たち、風俗、風景など、実はもうフランスの植民地になり欧化したことを作者が嘆いているころのもの、となれば、その絵も単にエキゾティズムというわけではなく、作者の心象を想像できるものだろう。
 
展覧会の呼び物はもちろん「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」(1897-98)(ボストン美術館)という大きな絵で、それまで何度も描いてきたいくつかのテーマが集め、組み合わされている。
深刻というより、作者の思いはともかく、作者の集大成をこちらは楽しめるとも言える。
 
中央の楽園のりんごを取る若者、人の目を逃れる若い男女、子どもが生まれる傍に犬、そして背中を向けた男と若い男女、そう一人の人間はたまたま生まれてくる、そしてまたりんごを取る。そして、大地に手をつきその力を感じる女、いまだ死の恐怖をなんとも出来ない老人、隅の白い鳥は何?
 
左側の男女の男の方の顔は、表情がない、顔色も血の気がない、それでいて作者がよく描いてきた顔である。これ以上、描いてしまえばおしまいという何かなのだろうか。これが人間だよ、といわれると怖い。

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