メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

インスタント沼

2009-06-14 18:56:13 | 映画
「インスタント沼」 (2009年、120分)
監督・脚本:三木 聡
麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子、相田翔子、ふせえり、白石美帆、温水洋一、岩松了
 
前作「転々」(2007)以来の三木聡作品。会社(雑誌出版)の業績も自身の仕事もうまくいかない「ジリ貧OL」(麻生久美子)が、倒れてしまった母(松坂慶子)の昔の手紙から、父親ではないかと見られるいんちき臭い骨董店主(風間杜夫)をたずね、そこで出会ったパンクの若者(加瀬亮)と、さらに不思議な自身ルーツさがしを始める。
 
開始から配役の紹介までの数分は、主人公のナレーションとともに激しくコミカルな数秒のシーンを組み合わせ、それにギャグ、背景に埋め込まれたおふざけが加わって、快調な進行を期待させる。
 
しかし、三木のアイデアはそうでもなくて、つまり傑作「亀は意外と速く泳ぐ」のようにとんでもない背景、悪ふざけもここまやるかという展開、その中にちりばめられる数多くのギャグ、といった作風からすると、よりゆったりした流れ、主人公がかもし出すほのぼの感を意識しているように見える。それは「転々」でもすでに感じられたことであって、本作で奇想天外はそろそろ終わり、まとまりのよいコメディの中で別の充実を目指すようになっていくことも予想できる。
 
そしてこれは麻生久美子を使うという前提で成り立った脚本であろう。このジリ貧から、やけになり、自分で骨董店もやり、そこからルーツ探しでは、行動スタイルとしては地に足がついてくる、そして現実にもどっていく。ある意味では、モラリストの作品。麻生の影をみせない、そして憎めない勝手な明るさの表現あっての映画だ。
 
期待が大きすぎたせいか、映画を見終わっての満足感はもう一つ。そこは、これまでの映画、TVドラマ「時効警察」を背景にしたいくつもの埋め込み、こっちの勝手な連想を加えて楽しむということになった。
 
何かが勢いよく飛び出るのは「時効警察」最後の場面を想起させるし、本当の最後の落ちでのテンションの下げ方はうまい。
 
風間、加瀬、松坂の主要新メンバーはまずまず。常連の出演者は皆たのしいが、その中でも今回は温水洋一、村松利史。
 
主人公のコスチュームデザインは山瀬公子という人。花がうまくちりばめられている衣装は、大柄な麻生が着ても可愛く、女性に人気が出るだろう。
 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする