いま借りて読んでいる本は
南陽外史『不思議の探偵 / 稀代の探偵』(作品社)
明治時代半ばに盛んだった「翻案小説」(「 外国作品の骨子は活かしながらも、風俗・地名・ 人名などを自国に合わせて置き換え、 ストーリーそのものもかなり自由に書き直した小説」)。『 不思議の探偵』は『シャーロック・ホームズの冒険』 の全話である。『帝王秘密の写真』は『ボヘミアの醜聞』 と容易にわかる。ホームズは「大探偵」、ワトスンは「医学士」 と書かれて名前は出てこない。 人名や地名が日本化されている場合、「ベーカー街」→「 麺麭屋街」のように意味をとったものと、須佐まり(←メアリ・ サザランド)のように音を多少なりと近づけたものがある。「 青江漣」は「アイリーン・アドラー」である。
地名が、通りや街のレベルだと日本化されていて、 都市レベルだとそのままになっているようだ。 しかし奇妙なことに、舞台はロンドンではなくベルリン( 伯林という表記)、ホームズやワトスンはドイツ人。これは、 筆者(訳者) がこれの前に手掛けていたシリーズの主人公のドイツ人ドクターが 友達を紹介した、 それがホームズという設定になったからだという。 しかしさらにおかしなことに、 そのドクターというのも本来はイギリス人、 当時の日本人にとって西洋人の医者といえばドイツ人というイメー ジーーだと説明されている。
ほかに目立つ違いは、
なんといっても『禿頭倶楽部』だろう、もちろん『赤毛連盟』 である、筋は同じだけど。
『暗殺党の船長』は『オレンジの種5つ』。原典では、 依頼人の叔父がKKKに殺されている。 黒人嫌いがKKKにというのはヘンな気もするが、 アンチ黒人の間でもトラブルがあったのだろう。しかし翻案では「 暗殺党」とは、「黒人反対の男女を暗殺」 する組織と書かれている。 黒人嫌いが殺されるならその設定のほうがすっきりわかりやすいが 、まったく逆になっている。
『散髪の女教師』は『ぶな屋敷』、春名薫は「ヴァイオレット・ ハンター」のことである。
ツッコミいれながらなかなか楽しい。
現代における「ローカライズ」には反対だが、 まだ異国の風物に対して馴染みのない時代に、 工夫して取り入れようとする努力は評価したい。
少なくとも、 いまの洋画に蔓延っている安易な原題カタカナ化よりも立派な心が けだろう。