レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

悪徳小説家 ディオニュソスの階段 アルファベット・ハウス

2016-10-06 06:35:50 | 
ザーシャ・アランゴ『悪徳小説家』

 創元推理文庫の新刊。
 私は文庫新刊リストを点検して、著者の名前からドイツものの見当をつけるが、この本の場合、コロンビア人の父とドイツ人の母を持ってベルリンに生まれたという事情でドイツっぽくない名前なので気が付かなかった。
(先日言及した『獣の記憶』のニーナ・ブラジョーンも名前でわからなかった)
 ベストセラー作家のヘンリーは、妻を愛していながら編集者のベティと浮気している。そしてベティが妊娠する。彼女を殺害したはずが、ベティは無事ヘンリーの目の前にまた姿を現す!?
 かつてヘンリーと施設で一緒であり、彼に虐められていたこと、自分も作家を目指して挫折したという嫉妬等でヘンリーのまわりをかぎまわる旧知の男、余命いくばくもない編集長はベティに求婚し、その秘書はベティを妬む。
 ほかに、若い刑事、壮絶な過去を持つ地元のセルビア人漁師等、鮮やかなキャラたちが敵としてまたは味方として動き回り、スリリングに展開する。
 『太陽がいっぱい』を連想する人々は多いらしく、解説でも言及されている。


ルカ・ディ・フルヴィオ『ディオニュソスの階段』上下  ハヤカワ文庫2007年
 19世紀から20世紀にかけて、社会主義が労働者たちの間に広まり、資本家が危惧しているという背景はあるものの、場所に関してはあまり特定させていない。人物名も必ずしもイタリアらしくない。
 凄惨な連続殺人があり、有能だがヤク中気味の警部ジェルミナルが捜査する。「奇形研究所」の、やはり奇形の体を持つ「伯爵」身分の所長、サーカスの踊り子、工場労働者をたきつける運動家、怪しい人々がうごめく。
 「ディオニュソス」という名前には、ギリシア悲劇とのつながりがある。 『バッコスの信女たち』を再読したくなった。


ユッシ・エーズラ・オールスン『アルファベット・ハウス』
 『特捜部Q』で知られるデンマークの作家の単発もの。まずこれから読んでみた。
 大戦中に始まる。英国空軍パイロットのブライアンとジェイムズは、ドイツ上空で撃墜された。逃亡中、傷病兵を運ぶ列車に潜り込み、死体を放り出して彼らになりすます。運ばれた先はSS隊員の精神病患者の施設だった。仮病が露見したら死刑という状況で、ほかにも数人の偽患者がいる。ブライアンは逃亡、そして27年後、医者になったブライアンは、ミュンヘンオリンピックの際に仕事でドイツに再訪し、ジェイムズの消息を求める。そしてかつて彼らを虐待した元偽患者たちが名士としてのうのうとしていることも知る。
 病院がフライブルク近郊にあったという設定で、街中もたびたび出てくる。「聖堂広場」ってミュンスタープラッツのことか。「レオポルト環道」、近くにあった。「カイザー・ヨーゼフ通り」、メインストリートだ。「ベルトルト通り」、中心部の交差点だ。「シュロスベルク」、登ったよ。「ヴェーバー通り」、この隣の通りに住んでたよ。「シュタットガルテン」、この公園が通学路だったよ。・・・と、知っている名前がぞろぞろ出てきて懐かしいったら。
コメント
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