マガジンひとり

自分なりの記録

読書メーター #10 — 意識はいつ生まれるのか、ほか

2018-09-16 19:55:20 | 読書
いかにも「かわいいでしょ」といわんばかりの動物の画像・映像がツイッターを流れてくると顔をしかめる、心の冷たい、ペットを飼って世話をするなど想像もつかない私ではあるが、先日流れてきた2つの映像には考えさせられた。まず猫。飼い主が部屋へ入るとき、何かをひょいっとまたぐような動作をする。何もないのだが。すると後に続く猫は、不審そうに探るような様子で、結局は飼い主と同じくジャンプして部屋に入るのである。

もう一つは犬だ。肉のたるんとした犬種を模して作られたケーキ?を、人がその頭部をナイフでこそげ取るようにして皿に取り分ける。飼い犬らしき犬が、目を見開き、本当にびっくりしたような表情でそれを見ている。猫のほうはともかく、犬の飼い主は、同族の首を切って殺したというように誤解されて懇切に釈明することもできないで恐ろしくないのかなと。

これらから分ることは、犬や猫には高度な認識能力があり、共感や恐怖、喜びや悲しみ、人とは異なるにしても心の動きが確かにあるということです。いっぽう、私は3万曲近くの音楽をiTunesで管理し、それが音楽を管理する最終解決だと見込んでいるので、iTunesを開いたり閉じたり、さまざまな手続きもソッと慎重に行う。何かの弾みでデータが壊れたりしないかと。でもそれは、音楽の複製物をまるで人格のように見なして畏れる迷信に近い。ただのデータに過ぎないから、もしパソコンが物理的に壊れなければ、閉じてから次に開くまで1万年かかったとしてもデータの内容は変らないだろう。

生命はまことに驚異である。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』『意識はいつ生まれるのか』の2冊は、あらためて人生のかけがえのなさを教えてくれた。大自然や人の歴史・文化をいとおしみ、一瞬一瞬を丁寧に燃やして生きてゆきたい—



オカルトの帝国―1970年代の日本を読む
一柳 廣孝
青弓社

一柳廣孝/オカルトの帝国―1970年代の日本を読む/青弓社2006
ドラえもんのひみつ道具って科学じゃないですよね。絶対不可能なことだらけ。魔法あるいは呪術である。当初は不人気な漫画だったが、やがて国民的アニメに。70年代、広告や金銭の欲望、性欲・物欲に呑みこまれ、遂にキリスト教的な人道主義を内面化することのなかった日本人が、文明と土俗、啓蒙と集団催眠に引き裂かれつつ、イイとこ取りして消費し尽くすのが、UFO・超能力・霊魂・ノストラダムス・日本沈没・アトランティス大陸などの流行現象だったのでは。実用書や宗教書が有吉佐和子・司馬遼太郎らの小説と競うベストセラー表にもその趣き


麻原彰晃の誕生 (文春新書)
高山 文彦
文藝春秋

高山文彦/麻原彰晃の誕生/文春新書2006
父と長兄の意向で盲学校に入れられたことを最初のきっかけに、70年代・田中角栄の金権政治や列島改造、メディアを通じてオカルトブームが沸き起こったことなどの影響から、松本智津夫の権力欲とオウム教団の拡大・暴走は決定づけられた。ヨガ修行やシャクティーパット等の儀式、空中浮揚(そのオカルト雑誌での宣伝)、ハルマゲドン思想、宗教法人化と土地取得・サティアン建設。すべて既に出回っていた事象の寄せ集めながら、現状に飽き足りない若者を吸い寄せ、彼らは欲望の怪物・麻原彰晃の手足となって恐ろしい犯罪の数々を実行したのである


るーみっく・わーるど 2 (少年サンデーブックス)
高橋 留美子
小学館

高橋留美子/るーみっく・わーるど2/少年サンデーブックス1984
期待だけ膨らんでいた初見の「勝手なやつら」「戦国生徒会」が、多数派に向けた保守的な娯楽の感じ(小池一夫譲り?)でぜんぜん面白くない。まあ俺も『うる星やつら』を知った頃はベストテンとか欽ドンとか見てたし。またUFO・タイムトラベル・超能力ネタが多いことも、自由に伴う責任を回避する新自由主義の隆盛やオウム真理教事件など、70~80年代から空気が醸成され、後戻りの利かない、時代の必然であったと暗に示すような


本当に住んで幸せな街~全国「官能都市」ランキング~ (光文社新書)
島原 万丈,HOME’S総研
光文社

島原万丈+Home's総研/本当に住んで幸せな街 全国「官能都市」ランキング/光文社新書2016
ゴミ新書。「コンサルタント」なる人種がいる。スルガ銀行やかぼちゃの馬車を主犯として炎上中の不動産投資の問題でも有象無象が暗躍しているようだ。銀行・マスコミ・電通・リクルート、そういう奴らだけは層が厚いね。文化は薄っぺらだ。何もない。インバウンドの中国人などもやがて飽きるのでは。OECD諸国の中で、人口が多い国としては圧倒的に学力優秀。なのになぜ音楽や映画、都市景観、これほど悲惨なのか。コンサル人種は美辞麗句を連ね、悪い面にはいっさい触れず、お金をむしり取ってゆく。役人栄えて国滅ぶ、を活字化したゴミ新書


リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
Andrew Ross Sorkin,加賀山 卓朗
早川書房

A・R・ソーキン/リーマンショックコンフィデンシャル・上/ハヤカワノンフィクション文庫2014、原著2009
ナニワ金融道の最終エピソード(以降の話は俺はナニ金と認めない)船舶詐欺編に裏切平基(うらぎりへいき)なる人物が登場する。「(裏切は)店子のくせに大家のワシをハメよった」。そりゃそーだ。家賃を払わされることは憎しみ・怨恨以外の何ものでもない。なのでお金を扱う人びとは、資本主義が人間性を荒廃させる事情を折り込んでいなければならない筈だが、銀行・証券・保険、どうせ他人の金だとリスクを忘れて投機に耽る。「流動性の異常の最たる例は、サブプライム住宅ローン市場だった。(下巻へ続く)


リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
Andrew Ross Sorkin,加賀山 卓朗
早川書房

A・R・ソーキン/リーマンショックコンフィデンシャル・下/ハヤカワノンフィクション文庫2014、原著2009
(上巻から続く)住宅バブルのさなか、銀行は点線の上にサインができる人間なら、誰にでも喜んで住宅ローンを提供した。(中略)普通の人びとが投機家となって家を転売し、SUVやモーターボートを買った」。本書に登場するような肉食系の金融マンがデリバティブのような複雑な金融商品としてリスクをばらまき、ひとたび信用不安が起ると売りが売りを呼び、損失を確定することさえままならない「流動性の罠」。リーマンBros破綻、AIG国有化をはじめ100年に一度と呼ばれる金融危機が世界を覆った…Σ(°Д°;)


シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う (岩波現代文庫)
Ivan Illich,玉野井 芳郎,栗原 彬
岩波書店

イヴァン・イリイチ/シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う/岩波現代文庫2006、原著1981
誰かが「革命したいしマルクスでも読もうかなあとチラッと見たところ労働者が労働した分だけ価値が生まれるみたいな雑すぎる話が始まった」とツイート。産業革命以降、賃労働が錬金術のようにもてはやされる一方それを補完する家事や家庭内の育児・介護は影の仕事として不可視化され、人は経済の部品となり主体性を奪われたというのが本書の主旨。そう仕向けるのは「学校・交通・医療」であるとも。といって著者の主張するヴァナキュラーな領域=自立自存しうる地域経済というのも、巨大で複雑な現代社会において実効性に欠けるのではという疑問が


未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)
大野 和基
PHP研究所

大野和基・編/未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか/PHP新書2018
『サピエンス全史』のYNハラリ氏「お金や国家や人権など虚構を信じる能力が人類をここまで導いたが、テクノロジーの急速な進展により人びとが(AIに取って代わられるなど)不安を覚えポピュリズムが台頭」。『経済成長という呪い』のDコーエン氏「人が不老不死になることはないし、人対人の仕事は消えないが、テクノロジーを操る側との格差拡大は不可避」。これらは比較的冷静ながら、他の論者には「宇宙の資源」やら「無機生命体の増殖」やらコストを無視した空論も交じる。それこそ東京五輪みたく虚構を信じさせてタダで人を使った方が合理的


VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学
Jeremy Bailenson,倉田 幸信
文藝春秋

ジェレミー・ベイレンソン/VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学/文藝春秋2018、原著2018
ドワンゴ川上が宮崎駿氏に見せたところ「生命への侮辱」だとして怒られた、痛みを感じない生命体のCG。本書の著者はもちろん川上などよりは広い視野を持つ知性的な人物だが、読み進めるうち、考え方としては近いのかなと。生命の歴史への軽視と、技術力への過信。現状のVRは視覚の焦点を近くに固定せざるをえず心身を極度に疲労させるような不完全な技術だが、人の心理面に与える影響は既存メディアを大きく上回る。フェイスブックなどの悪徳企業がVR技術によりユーザーを洗脳して囲い込み、人生の物資化に拍車が掛からないか懸念される


意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論
花本 知子
亜紀書房

J・トノーニ&M・マッスィミーニ/意識はいつ生まれるのか―脳の謎に挑む統合情報理論/亜紀書房2015、原著2013
「脳は本当に特別な存在だ。(中略)もし統合される情報に熱があったら、視床・皮質系の温度は、太陽の中心と同じくらいに上昇することだろう」。おびただしい差異と統合こそ意識の正体であると著者。睡眠して夢をみている脳を摘出し、機械につなげて生かせば、夢をみ続けるであろうが、脳内の情報をそっくり機械に移したとすれば、夢は終り、意識は永遠に蘇らないだろう。膨大な差異と統合、そのミクロ的な変化の過程こそ意識であり、人工的に再現することは今後とも不可能に違いない。生命の歴史が育んだ奇跡。誠実な語り口を伝える翻訳も見事です

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