Suzi Q: Directed by Liam Firmager (2019), @下高井戸シネマ
オーストラリア人監督リアム・ファーマガーによる『スージーQ』は、デトロイト生まれで英国在住のシンガー/ソングライター/ベーシスト/バンドリーダー/俳優/詩人であるスーザン・ケイ・クアトロのプロとしてのキャリアを描く。メインストリームに躍り出た最初の女性ロッカーであり、正真正銘ロックンロールの女王である。1973年にスージー・クアトロが音楽シーンに登場する以前のロック界に女性はほとんどおらず、ベースを弾きリードボーカルを務めバンドを率い、世界の何百万人もの人びとに影響を与えた人物は皆無だった。
本作の制作陣は、スージーの先駆的な地位が音楽業界、ことに母国アメリカで不十分な認識にとどまっているという感覚から5年の歳月をかけて本作を完成させた。その結果スージーQはロック界の女性史の改訂版となり、年齢を感じさせない意欲的なパフォーマーへの敬意ある洞察となった。名声・野心・エゴ・回復力についての個人的な探求と、成功のために支払った代償とは何か。アリス・クーパー、デボラ・ハリー、ティナ・ウェイマス(トーキング・ヘッズ)、ジョーン・ジェットとチェリー・カリー(ランナウェイズ)、KTタンストール、オーストラリア生まれのプロデューサー/ソングライターであるマイク・チャップマン、そしてコラボレーターや家族。スージーの私生活と53年にわたる栄えある道程を記録した映画である。 (2020年DVD版の商品説明)
「イメージチェンジを図りたいと思いませんか」
「そうね。胸の開いたドレスを着てラブソングが歌ってみたいわ」
「ぜひ実現してください!」
「ジョークよ」
このインタビューは1977~78年ころ米ABC放送の人気バラエティHappy Daysのキャラ「レザー・トスカデロ」として、それまで成功できていなかった母国米国でも認知され始めた当時の。皮のジャンプスーツを着てベースを低く持ち、ブギを歌い演奏する小柄だがパワフルなロック・クイーン。このキャッチーなイメージは、Chapman & Chinnによるポップなシングル曲と共に英国から欧州全域、オーストラリア、そして日本を1973~75年にかけ席巻。デトロイトの芸能一家に生まれ、姉のいるガールズバンド「プレジャー・シーカーズ」に誘われ、やがてプロデューサーのミッキー・モストに見いだされ単身ロンドンへ渡る彼女の本心は「音楽をやりたい」のでなく「成功したい」。野心家だが成功しても名声に飲み込まれることはない。セックスや麻薬とは無縁。ステージを降りたら一人の女に戻る。ジャニス・ジョプリンが西海岸のヒッピーめいた音楽シーンに持ち上げられ、自分を見失ったのとは対照的で、逆にそれゆえ「女のロックのアイコン」として定着できなかったのかなと思う(ジョーン・ジェットが類似キャラで80年代に成功)。
近年の私の年間チャートは昨年1位のビッグ・シーフはじめ自作系の女性上位。2021年3位のコートニー・バーネット「時は金なり、そしてお金は誰の友でもない」という歌詞のような、スマホを介して人生の時間が最後の資本として使われていく時代、キャラでなく自然体で持続できるマジメな女が浮上。過去の芸能界、特にロックにマジメは求められていなかった。日本で噂を聞かなくなってからのスージーはヒット曲こそないが英TVドラマやミュージカルの舞台に出演、どんな場に呼ばれてもエンターテイナーとしての立ち振る舞いは見事なもので、最後にはシンプルなロックンロールに戻ってくる、見ごたえある女の一代記でした。