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モース博士の集めた看板たち

2010-01-29 22:41:38 | Bibliomania
(アメリカからの里帰り)幕末・明治KANBAN展@1984年に日本橋高島屋など3ヵ所で開催
米国マサチューセッツ州セイラム市のピーボディー博物館には、「大森貝塚」の発見者としてわが国の考古学の祖となったエドワード・モース博士が収集した、幕末・明治の日本人の生活をしのばせる膨大な民俗資料・民芸品が眠っている。彼が3度の来日を通じて日本に愛着を感じ、熱心に集めたそれらは、文明開化によって急速な西洋化のもたらされたわが国ではもはやお目にかかれない、貴重なコレクションといえよう。
集められたものは櫛、かんざし、キセル、下駄、職人道具、武具など多岐にわたるが、この展覧会では実際に使用されていたとみられる看板約130点を中心に展示したもので、およそ100年前の日本人の社会、経済、風俗、そして街頭の活気までがよみがえるようだったのではないだろうか。



薬屋(80×110.5cm)



薬屋・胃腸薬(83×43.5cm)



八百屋(42×91cm)



下駄屋(28.5×26.6cm)



易者(86.5×60.5cm)



木彫師(直径43.5cm)

  

エドワード・モース(Edward Sylvester Morse・1838─1925) モース博士は貝塚を発見しただけでなく、日本文化をアメリカに紹介するなど、日本ととても深いつながりを持っている。
メイン州ポートランドに生まれた彼は、少年時代から生物学を志し、ほぼ独学で生物学者となったが、考古学や天文学などにも好奇心旺盛であった。彼が日本政府の招きに応じて「お雇い外国人=近代化を目指す日本の若い人材に学問や軍事を教える」として来日したのは1877(明治10)年のこと。貝類の研究をしていた彼は、横浜から東京へ向かう汽車の窓から、貝の残骸が層になったような場所を大森駅過ぎに発見した。東京大学の教授となったモース博士は本格的な発掘調査を行い、貝だけでなく土器や石器、人の骨も発見し、日本で初めての遺跡調査報告書をまとめた。「縄文」という言葉も、彼が「Cord marked pottery」と記述したのが当初「索紋土器」、やがて「縄文土器」と訳されて定着したものである。
モース博士は日本にただならぬ愛着を感じ、計3度の来日を通じて全国各地を旅行し、民芸品などを熱心に集めた。そして日本人の生活を記録し、帰国してから『Japan day by day』という本にまとめたのである。↑図のように看板についても絵入りで詳しい考察を行っている。
彼は、大都市から離れた田舎でさえも熟練した職人が数多いことに鮮烈な印象を持ち、「3600万人の住むこの国のどこに行っても、芸術的な仕事をする人びとと、その作品を評価できる人びとがたくさんいる」と述べている。いっぽうで富国強兵・殖産興業の道を選び、急速に変わりゆく日本を目にして「強い力をもち、かつ利己的で商業主義的な西洋の国々とやむをえず交渉をもつようになって、かつてない変化と改革を体験しつつある国家と国民、その姿を調査しておくことは何にもまして重要なことだろう」と記し、また「この国の文化は、日ならず、西欧化の波にのまれて消え去ってゆくであろう」とも記した。そして持ち帰った収集物は、モース博士が名誉館長を務めるピーボディ博物館に収蔵されることになった。彼は関東大震災の報にショックを受け、書き改めた遺言のとおり蔵書は死後、すべて東京大学に寄贈されたのである。

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『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

2010-01-26 23:15:04 | 映画(映画館)
Blue Gold: World Water Wars@渋谷アップリンクX、サム・ボッゾ監督(2008年アメリカ)
水がなくなった地球を舞台として描かれるSF映画の企画を練っていた本作の監督サム・ボッゾとプロデューサーのサイ・トリビノフは、資料とするはずだった『「水」戦争の世紀』(日本語版は集英社新書として刊行)を読むうち、いま世界で起こっていることをドキュメンタリー映画として伝えなければという思いに駆られた。
「環境問題はCO2の排出および地球温暖化に絞られているかに見え、それは“どうやって生きるか”を問うているが、水をめぐる危機的状況は根本の“生きられるかどうか”の問題なのだ」。
海に囲まれ山林の多い日本に住むわれわれにはピンと来ないが、今後の世界の人口増加を考慮すると、きれいな淡水の資源は絶対的に足りなくなりつつあるのが現状だ。そのことからすると20世紀が石油をめぐる戦争の時代だとしたら、21世紀は水をめぐる戦争の時代になるともいわれる。
この映画では事実あちこちで“水戦争”に近い状況が起こっている現状を伝える。水企業は、開発途上国に水道事業の民営化を迫り、世界銀行・IMF・国際金融業は海水の淡水化技術およびすでにあるきれいな淡水を独占して商品化する計画に投資の狙いを定め、政治家と軍隊もそれらの利権の確保のため暗躍する。水企業は、ペットボトル入りの水によって、世界中から収益を上げる構造を築きあげつつあるのだ。
また「高価な商品」となってしまった水を「当然の権利」として取り戻そうと戦う人びとの姿をもとらえる。市民が清涼飲料水メーカーを訴えたアメリカでの裁判、水道が民営化されたボリビアでの抗議運動、国連に「水は人権であり公共信託財である」とする水憲章採択を求める運動などである。『「水」戦争の世紀』著者モード・バーロウは言う、「これは私たちの革命、私たちの戦争なのです」と。



毎度エロか中傷かのどちらかからしか始められなくてごめんよ。きょうも有名人の悪口だ。ハゲてもないくせしやがってハゲ・薄毛治療のCMに出るお笑い芸人2凶。島田紳助と爆笑問題。紳助の場合、専制的でビジネスライクな芸風は彼が身をもって実践してきた人生観に基づく。ろくなもんではないが、一貫はしている。最悪なのは、リベラル・民主主義を装って、実のところ誰より利権に目ざとくて、芸能界で空席だった「左のビートたけし」の地位を占めて君臨するにいたった太田光だ。笑えないというより、殴りたい。あんなやつには絶対にわれわれの気持ちを代弁させたくない。
投稿コーナーそっちのけで自分トークを繰り広げがちな伊集院光の深夜ラジオにも、そうした自己中心性を感じるので、もう聞くのをやめようかと。
体型的には伊集院と、「リベラルを装って」ってところには太田と共通するものが見られた、マイケル・ムーアが資本主義をあつかった映画。2時間ほどで収めなければならないためもあってか、あまりに大きなテーマを「すべて資本家・権力者の強欲・横暴が悪い」と単純化。登場する普通の人びとも「被害者」として一面的にしか描かれないので、奥行きが感じられない。彼らにもさまざまな面があってそれぞれ必死に生きていることが見えず、マイケル・ムーアの持論を説明するための道具になってしまってる印象。とっても近しいのだ、資本家・権力者のやってることと、マイケル・ムーアのやってることは。
そこには(自分のことではないので)他人の人権を軽んじるという発想が隠れており、人を物資あつかいして食いものにする新自由主義の系統にも連なりうる。この「自分のことではない」ということが、結局のところさまざまな問題の解決を阻んでいるのではないだろうか。
水は人体に必須。人体というより、あらゆる生命活動にも。砂漠地帯で遭難して、すんでのところで救出されたある人は、↑画像のように全身がカサカサとなり、唇はまるで切り取ったかのように消えてしまっていたのだとか。
さらに水にまつわる環境破壊の中でも、地図を書き換えさせるほど大規模に行われた例として知られるのが旧ソビエト連邦によるアラル海周辺での「自然改造計画」。綿花栽培のための灌漑や運河の建設などで、湖に流れ込む河川の流量は急激に細り、世界4位の大きさを誇ったアラル海は水量が8割以上も失われてしまった。残った水も塩分濃度が極度に高く、周辺の湿地帯も汚染されて荒れ果て、魚も水鳥も姿を消して「死の土地」と化してしまったのだ。
ソビエトが共産党=官僚支配だからという話では済まない。ダム。水俣病。どこの国でも起こりうる水問題。上下水道は自治体が担うのが当然というのも、通用しない国が多いそうだ。水が「みんなのもの」ではなく、水源を確保したり運搬のため人や設備に投資したりした民間企業のものになる。いまや水質汚染や異常気象のため「きれいな淡水」は石油のような有力な資源になりつつあるのだ。商品。パッケージされた。ペットボトル入りの水はわれわれにとって安価かもしれないが、きれいな水の手に入りにくい、経済後進国の人びとにとっては高級品。コカコーラより水が高価な国もあるとか。
グローバルな水市場において、これから石油埋蔵量と同じように注目されるといわれるのが地下水などの汚染されていない豊富な水源で、ロシア、カナダ、ブラジルが三大水資源国とされる。ブラジルの地下水源はパラグアイなどともつながってるので、米ブッシュ一族がパラグアイの土地を買い占めているという話も。それらのエピソードは、マイケル・ムーアの『キャピタリズム』よりももっと資本主義の姿を伝えてくれ、それぞれ血が通って生き生きしている。ドキュメンタリー映画として一級品。
元になった新書本も買って読み始め、見慣れぬ固有名詞が多くて、経済や科学の記述など硬めな本ですが、映画によってすでに顔が見えているということは大きい。われわれの問題でもあるのだと感じることができるし、映画単体として見た場合も、フィクションのパニック映画よりはるかに怖いと思います。お勧めです。

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ユダヤ音楽家の作詞作曲

2010-01-24 20:30:02 | 音楽
BIRD ON THE WIRE (Leonard Cohen) 《大意・以下同》
電線の上の一羽の鳥のように
真夜中の聖歌隊の酔っぱらいのように
自由になるために、わたしなりのやり方を試してきた
もしもわたしが不誠実だったとしても
それは決してあなたに向けたものではない
わたしは誓う、この歌にかけて
すべての過ちにかけて、あなたにすべてを償うことを
電線の上の一羽の鳥のように、わたしのやり方を試してきた

NEW PLEASURE (Richard Hell)
心が破滅し、人生に弱気になって
服も着られないほど無感覚になってるおまえ
でも俺たちは最高にやってるフリをする
催眠状態で─ほんとうに人生そっくりに
新しい歓び、新しい歓び
俺の耳に囁いてくれ、二人で出かけるのさ

STONED SOUL PICNIC (Laura Nyro)
出かけましょう
ぶっとびピクニックに
時間もお酒もたっぷりあるわ
サッサフラスに密造酒
空からの贈りものは神さまと稲妻
ぶっ飛んだ魂
行こう、行こう
張り切って行こうよ

MIGHTY QUINN (Bob Dylan)
外の者、あつまれ、中の者、あつまれ
マイティ・クインほどえらい者はいないのだ
みんな船や記念碑をつくっている
みんな絶望したり感情を害されている
でもエスキモーのクインが来たら
みんな喜んで飛び上がり、ハトまで寄ってくる
みんなあつまれ、クイン以上の者はない

BUS STOP (Graham Gouldman)
バス停留所、雨の日、そこにいた彼女に
よかったら僕の傘に入らないかと言った
バスは行ってしまったが彼女はとどまり
僕の傘の下で愛が育まれた
二人の楽しんだ夏、風と雨と日光
8月には、彼女は僕のものだった

UNDER YOUR THUMB (Kevin Godley, Lol Crème)
雨に打たれて駅に立っていると列車が来た
最後尾に乗ると、誰かの気配がする
やがて悪天候の雷鳴の音にまぎれて女が叫んでいるような声が
─あなたに支配されたくない、永遠に
煙草を吸ってもコーヒーを飲んでも、その叫び声はつきまとった
そしてある日、古い新聞に目を通していると
身元不明の女が列車から身を投げて死んだという記事が目にとまった
─あなたに支配されたくない、永遠に

CONGRATULATIONS (Paul Simon)
おめでとう
あなたはまたもや、やっちまったらしいですね
いつからか覚えてないですが、わたしはそれほど悲しい目には遭ってません
愛はゲームではない
愛はロマンスではない
それはあなたを疲れさせ、洗い流してしまうでしょう
知りたくてたまりません、どうか教えてください
男と女は、仲良く暮らせるものなんでしょうか

NOBODY (Paul Westerberg)
心が痛む、おまえの結婚式
みんなが俺のほうを見ると、事の重大さを感じる
膝はガクガク、ここにはショットガンはないよな
おまえの目はウソをつかない
いまでも名もない男と恋してるって
誓いの言葉を述べる、おまえはまだまだ子ども
おまえはいまでも名もない男と恋してる
俺はかつて誰でもなかった

SHOW BIZ KIDS (Walter Becker, Donald, Fagen)
ああ、おれは世界中を回ってきた
ワシントン動物園にいたこともある
どの旅のときも、事実が明かされるにつれ
わかったんだ、これが真実だと
貧乏人が眠る間に、明かりに覆いをつけて
貧乏人が眠る間に、すべての星たちが顔を出す、夜
自分たちの映画を作ってるショウ・ビズ・キッズ
そうさ、あいつらほかの人間には目もくれない

MONEY FOR NOTHING (Mark Knopfler, Sting)
あのヨーヨーどもを眺めてみろよ
MTVでギターをプレーする、お決まりのやり方
あぶく銭つかんで、そのうえ女はタダだぜ
電子レンジを据え付けなきゃならねえ
冷蔵庫やカラーテレビを運ばないと
ギターをしっかり習っとくべきだったぜ
なんだよこれは、ハワイアン・ノイズかい?
あぶく銭つかんで、そのうえ女はタダ

DR. ROCK (Dean Ween, Gene, Ween)
君に対して感じてることすべてを
ロック・サウンドみたいに演出したい
ロック先生!シャウトし方を教えて
ロック先生!デレクを走らせ、君のママをつかまえる
ロック先生!早く現場を見に来て
ロック先生!ロック先生!

YOU’VE GOT A FRIEND (Carole King)
あなたが元気なく悩むとき
すべてうまくいかないとき
そっと目を閉じて、わたしのことを考えて
わたしはすぐに飛んでいく
あなたがわたしの名を呼ぶだけで
わたしがどこに居ようとも
冬でも、春でも、夏でも、秋でも、かまわない
あなたには居る、友だちが

TRASH (Sylvain Sylvain, David Johansen)
ゴミ、いらないぜ
くだらないものは払い落とせ
ゴミ、俺の命は持っていかないでくれ
そして、どうか愛を確かめないでくれ
自分の気持ちがわからないんだ
ゴミ、ベイビー、おまえだけさ
ゴミ、払い落とせ
ゴミ、俺の命は持っていかないでくれ

MAN OF THE WORLD (Peter Green)
君に僕の人生を説明しなければ
世界の中の一人の男
いろいろなところを彷徨ってきた
かわいい女の子もたくさん見てきた
すてきな女性が必要なんだ
僕をあるべき良い人間だと感じさせてくれるような
これ以上悲しい気持ちになりたくない
恋に落ちていると感じたい

JUST A LITTLE LOVIN’ (Barry Mann, Cynthia Weil)
ほんの少しの愛
朝早く
世界があくびするとき
あなたを目覚めさせ、なにかいいことをもたらす
このくたびれた世界
よくないことはせいぜい半分
悲しいこともせいぜい半分
ほんの少しの愛を

LIKE A ROLLING STONE (Bob Dylan)
むかしあんたは相方の相田翔子とともに
ウインクとして飛ぶ鳥を落とす勢いだったじゃないか
ミス・ロンリー、手品師や道化師のしかめっ面を
振り向いて見もしなかったね
いま、あんたはポルノまがいのDVDで40女の裸をさらす
かつてのファンは悲しみ
それ以外の者もあんたをあざ笑う
どんな気がする
ひとりぽっちで、帰り道のないことは
誰からも望まれぬ
ころがる石のようなことは

GOD'S SONG (THAT’S WHY I LOVE MANKIND) (Randy Newman)
カインがアベルを殺すごとく、なにゆえ誰かが殺されなければならないのか
セスはわからなくて神に問うた
─愛らしいサボテンの花よりつつましいユッカの木より
わたしにとって人類の意味は薄い
キリスト教徒、ユダヤ教徒、仏教徒、ヒンズー教徒が四賢者を選んで
地上に悪疫がはびこり、人が自由に生きられぬわけを神に問うた
─あなたがたは信仰にくるおしく熱中し、わたしを真に必要としている
だから、わたしは人類を愛するのだ



iTunesプレイリスト <ダビデの星─3> 73分
1. "Bird On the Wire" Leonard Cohen (1969)
2. "New Pleasure" Richard Hell & the Voidoids (1977)
3. "Stoned Soul Picnic" Laura Nyro (1968)
4. "Chasing Sheep Is Best Left to Shepherds" Michael Nyman (1982)
5. "Mighty Quinn" Manfred Mann (1968)
6. "Bus Stop" The Hollies (1966)
7. "Under Your Thumb" Godley & Creme (1981)
8. "Morton Feldman: Madame Press Died Last Week At Ninety (LP Version)" John Adams & Orchestra of St. Luke's (1991)
9. "Congratulations" Paul Simon (1972)
10. "Nobody" The Replacements (1990)
11. "Limbo: the Organized Mind" Raymond Scott (1967)
12. "Show Biz Kids" Steely Dan (1973)
13. "Money for Nothing" Dire Straits (1985)
14. "Dr. Rock" Ween (1991)
15. "You've Got a Friend (Live)" Donny Hathaway (1972)
16. "Trash" New York Dolls (1973)
17. "Man of the World" Fleetwood Mac (1969)
18. "Just a Little Lovin'" Dusty Springfield (1968)
19. "Like a Rolling Stone" Bob Dylan (1965)
20. "God's Song (That's Why I Love Mankind)" Randy Newman (1972)



【ユダヤ音楽家】
【ユダヤ音楽家2】
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SANDY SKOGLUND (サンディ・スコグランド)

2010-01-10 21:59:02 | Bibliomania
A Breeze at Work, 1987

ずいぶん前からビートたけしという人は、人を笑わせられるようなおもしろいことを言うことはできなくなっている。お笑い芸人としては、終わった存在。それなのに今も司会などでテレビに出ずっぱりでいられるのは、やはり北野武として高名な映画監督であることがものを言っているのだろう。
でも、映画監督ってのは、よくよく考えてみれば「山師か政治家」のような存在。興行という側面、あるいは資金調達して製作できるかどうかにかかっている。それにはなにより人脈と金脈。「芸術的才能」などは二の次なのだが、そもそも彼にそれがあるだろうか。誰でもピカソになれるはずもなく、自分で描いた絵を映画で見せびらかしているが、どう見ても素人レベルだ。
忘れてはいけない。『ザ・ベストテン』が価値であった時代には、彼は自分のオールナイトニッポンのリスナーにリクエスト葉書を大量に書かせるとか、化粧品のCMソングを歌うとかのさまざまな手段を弄して、どうしても音楽で認められようと。音楽の才能など完全に無いのに。ほかにも役者として、本書きとして、ピアノを弾いたり、ピアノを教えてくれる女を愛人としてそのために出版社を襲撃したり、どれをとっても単独で世に出られる水準ではない。まずお笑い芸人であってこそ。そうして、あれこれ試みて、人脈と金脈を固めたうえで、ようやくたどり着いたのが「映画監督」というわけ。王さまは裸だったんです。
芸術家ってのは、違うんじゃないかな。富とか名誉とか権力のためだけじゃない、極端な話、世界中の誰にも認められなくても、絵が1枚も売れないとしても自分の理想を貫いて、死後に新しい時代が来てようやく価値が認められるような、そういうことを「芸術」って言うんじゃないか。
写真家なんてのも疑問。篠山紀信の写真って、篠山紀信の技量そのものよりも、その被写体を撮るのを実現できたことに価値があるんだべ。人脈と金脈。若い学生のほうが才能あって、同じ被写体でも、もっとグッとくる写真を撮れるかもしれないが、彼らには人脈と金脈がない。しかし、写真家のすべてがそんなふうでもない。被写体よりも、その作風にグッとくることもある。きょうの女性写真家さん。CGじゃないんです。多くの場合、自ら造形して、セットを配置して、面倒くさそうだが、できあがった写真はほかの誰でもない、この人独特の世界。昔たしかインスパイラル・カーペッツっていうバンドのCDジャケに用いられたことがあって、印象に残っていた。ネット時代になってから名前を認知し、作品集が欲しかったものの、高そうな洋書しかなくあきらめかけていたところへ、先日中野ブロードウェイの初めて訪れた4階、シャッターの閉まった空き店舗も多いが、まんだらけマニア館・まんだらけ変や、などまんだらけ周辺は異様に盛り上がっており、その「まんだらけ記憶」で発見。2500円くらいまでなら買おうかなあ、と思って値札を見たら1050円で随喜。ほかにも欲しくなるものがあり、値段よりも重たいので何冊も買えなかったが、これほどポテンシャルを感じた古本屋は近年記憶にない。



【Sandy Skoglund (サンディ・スコグランド)】
1946年、マサチューセッツ州クインシー生まれ。アメリカの女性写真家でインスタレーション・アーティスト。何ヵ月もかけて精巧なセットを作り、色のついた家具を置き、俳優を配し、たくさんのモノクロームまたは対立色の物体(動物あるいは植物など)を配置して撮影を行って、シュールなイメージを視覚化する独特のスタイルで知られる。
彼女は幼いころポリオを患い、いまも左腕に軽い障害が残る。スミス・カレッジで美術史とスタジオアートを学び、1967年にはパリに留学してソルボンヌ大学でも学んだ。1972年からニューヨークでアート活動を始め、1978年には食品を用いた反復的なイメージの写真を撮るようになる。やがてそれが発展し、彩色やセット配置も大がかりとなって、特に「Radioactive Cats」は彼女の名を高めた。1986年から開始した『True Fiction』シリーズは、コダック社が彼女の用いる染料を製造しなくなったことから完結できなかったが、同様のコンセプトに基づく『True Fiction Two』シリーズは、工程をデジタル化することなどによって最近完結したという。彼女はラトガース大学の教授も務めており、現在まで写真、インスタレーション、マルチメディアについて教えている。



Cookies on a Plate, 1978



Radioactive Cats, 1980



The Cocktail Party, 1992



The Wedding, 1994
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