マガジンひとり

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巻き添え食ってたまるかよ

読書録 #32 — 地面師、ほか

2022-10-31 17:14:54 | 読書
C・リンドホルム/カリスマ/ちくま学芸文庫2021・原著1990
丸善の「安倍元首相追悼コーナー」にて統一教会本と隣接して陳列され話題を呼んだ一冊。
「カリスマは、身体的な特徴とちがって、それを欠いた他者との相互作用のなかでのみ出現する。換言すれば、カリスマは個人に内在する何かと考えられるけれども、ひとはその資質を他者から隔離された状態で発揮することはできない。それが露わになるのは、ただその影響を受ける人々との相互作用のうちにおいてのみである。カリスマとは、何よりもまず、ひとつの関係、指導者と信奉者両方の内的自我が関与する相互交流なのである」としてウェーバー、デュルケム、とりわけニーチェとフロイトの思想・心理学を援用する形で考察。実例としてはヒトラーとナチス、ガイアナ人民寺院集団自殺事件などが取り上げられている。近年のメディアの発達(テレビとインターネット)や擬制商品(労働・土地・貨幣)、中心のない全体主義と大文字の他者といった構造問題の研究が進む以前に書かれたということもあり参考の域を出ない。




斎藤貴男/カルト資本主義 増補版/ちくま文庫2019・原著1997
財界バカ資料集。先ごろ亡くなった京セラ稲森和夫、ソニーの超能力研究、船井幸雄「脳内革命」、EM農法などなど、バブル崩壊後に際立った経営者の精神論・オカルト・似非科学への傾斜を取材し、肥大化しながらも内輪受けで空疎に終った東京オリンピック問題など現在編を追加して文庫化。数学センスがあったりガリ勉で理系に進んだが科学リテラシーが低く想像力のないタイプが統一教会(原理研)に狙われやすいと思うが、大企業化してからの世襲や雇われ経営者も後付けで「カリスマ・特別な自分」を求めてカルトに走るんでしょう。トヨタの社長もNTTの社長も安倍みたいな幼稚な言動。資料集と書いたがこんな不潔な連中の情報を書架に加えたくない。読み捨て。


ドナルド・キーン/日本人の戦争 作家の日記を読む/文春文庫2011・原著2009
「ぶらぶらと歩きながら(自宅全焼のため仮住まいの)小屋に帰る途中に思い出したのは、よく新聞に出てくる焼け出された人々が『さっぱりした』と言う、ということだった」内田百閒1945。作家はさっぱりできない人種。『暗黒日記』の清沢洌も『敗戦日記』の高見順も口では軍と政府を批判しながら、戦争末期までどこからか肉や酒を入手できている。政府・学閥・メディアに指導的な立場を与えられ、自分を見せびらかす広告商品としてヨコに連携。ひとりぽっちになれない。敗戦後の貧窮や反省も一過性。子どもの就職や縁談、自分の愛人などで容易に取り込まれてしまうから、岸信介や笹川良一の暗躍を抑えることなどできる筈がない。キーン氏は米海軍人として日本兵の遺品である日記や手帳の肉声に触れ、後に日本に帰化、2019年に死去。そうした無名の人の公開を前提としていない言葉こそ歴史の傍証であろう。




小林英夫/満州と自民党/新潮新書2005
「出来栄えの巧拙は別として、ともかく満州国の産業開発は私の描いた作品である。この作品に対して私は限りない愛着を覚える。生涯忘れることはないだろう」。
子どもランドかよ。若き岸信介が満洲国政府に着任したころ、満鉄と関東軍の権勢は圧倒的、特に満鉄は「調査部」と呼ばれるシンクタンクを持って各所に人脈形成し、東インド会社のような植民地経営を担う。彼は日産コンツェルンの鮎川義介を招き、軍と協調しながら満洲重工業開発株式会社を立ち上げ、政府を持株会社とする国策企業として軌道に乗せて満鉄の力を弱めた。本書は戦犯釈放後のCIAとの関係について触れていないが、「保守合同」についても「自由党も民主党もそのままでいい。新党が持株会社になって互いに自由にやればいい」という岸流の官僚統制・実利優先がはたらいたものとみている。


鈴木康夫/地面師 土地に喰らいつく男たち/東京法経学院出版1988
「日本列島改造論」をひっさげ、今太閣の呼称のもとに田中角栄内閣が華々しく登場したのは、昭和47年7月7日である。すでに前年から金余り現象を生じていた銀行をはじめとする大小金融機関は、不動産担保に金を貸しまくった。国民は素人までが、不動産の値上り益を見込んで、必要な土地でもないのに北海道奥地や、さらには離島にまで土地を買い込んだ。「一億総不動産屋」といわれた時代である。 当の総理大臣が政治家として知りえた開発予定地の情報によりペーパーカンパニーを使って安値で買い集め…(後略)
カール・ポラニーのいう擬制商品=本来的な商品ではなく市場を通してしか交換価値を発揮しない「労働・土地・貨幣」を指し、やがて市場は一人歩きし人間を縛るようになる=とはヒトの本能に訴えるゲームなのだろう。ネトウヨの従弟のお父さん(私の伯父)も列島改造土地ブームのときに価値の乏しい茨城県の宅地を買っている。まして職業的犯罪者のみなさんにとっては…。司法試験や司法書士・公認会計士などの資格試験参考書を手がける出版社が、こういう海千山千の面々に引っかからないようにと犯罪実録としてまとめ、ほか痴情がらみ・少年犯罪・疑獄などシリーズ化。


A・R・ホックシールド/タイムバインド/ちくま文庫2022・原著1997
副題「不機嫌な家庭、居心地がよい職場」。内容に乏しく、ナナメ読み。私の小中時代は勉強だけできる、他が伴わない人望のない子ども。本とか音楽とか一人遊びが好きで集団の切磋琢磨が無理。部活はイヤ、大学受験から逃げ、高卒で就職。しかし現実からは逃げられない。就職先は仕事は楽だがそれだけに縁故採用の田舎者が多い特殊法人(電電公社⇒NTT)。職場の和と称する集団主義は個性を押しつぶし、思考停止させ、拘束と労働のストレスもまた就業後の「飲む・打つ・買う」夜遊びの形で資本主義に回収される。主婦やOLの自己愛的な「女性型消費」とも共依存を成す。昭和期にそれがうまくいき過ぎて、集団で思考停止して変化を拒む浦島太郎化しているのが今の日本。本書にそうした言及はなく、ワークライフバランスとかの言葉を好む意識高い系向け。


ちくま日本文学全集14・梅崎春生/筑摩書房1992
主人公「志願兵。志願兵上りの下士官や兵曹長。こいつらがてんで同情がないから」
後に死んでしまう見張りの男「私は海軍に入って初めて、情緒というものを持たない人間を見つけて、ほんとに驚きましたよ。情緒、というものを持たない。彼等は、自分では人間だと思っている。人間ではないですね。何か、人間が内部に持っていなくてはならないもの、それが海軍生活をしているうち、すっかり退化してしまって、蟻かなにか、そんな意志もない情緒もない動物みたいになっているのですよ」
降伏直前、本土防衛の任にあたる日本兵たちを描く短篇「桜島」。話変わるがネトウヨというのは本来のオタクやヤンキーと異なり、仲間うちで楽しむのでなく、左翼(日本に、特にネットに本当の左翼がいるか疑問だが)を攻撃すること自体が遊びになっている人たちだというのだ。なので今のように統一教会や円安、逆境にあることでますます狂ったように書き込み続ける。安心できないと性的快感を得にくい女と異なり、男はストレスと性欲が正比例する面があるわけで、一種の変態性欲であり依存症的な精神障害でもあるのだろう。 


アンジェラ・デイヴィス/監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体/岩波書店2008・原著2003
爆笑問題・太田光の逆上と炎上。売れっ子になる前に松本人志と遺恨があり、野心家の妻が芸能事務所タイタンを立ち上げて、芸人と同時に芸能テレビ界の顔役でもあるという形で遺恨を晴らそうとしたと考えられ、それは同時にあちこちの既得権に義理ができてがんじがらめに縛られる、暴力団の人質のようなものでもある。裏切れば死。安倍が殺され、統一教会や五輪汚職の問題が明るみに出てからの、太田だけでなく右翼・冷笑・政権擁護系著名人の狂奔ぶりは、彼らとメディア・広告関係者が本書に描かれる「民営化されたアメリカの刑務所、派閥や抗争があって組合化されない労働力への企業の依存」を20年遅れで模倣しているかのようで、人口が減る中でアメリカ的な格差とモラル荒廃が迫ってくる状況に震撼とさせられる。


倉多江美/エスの解放/白泉社花とゆめコミックス1979
高3の樫山めいは突然自分が同学年の自殺した河端美智子だと言い出し、夢遊病者のように歩いたり奇行が目立つように。その裏には生まれてすぐ亡くなった彼女の双子の妹の存在があった─。
山岸凉子『日出処の天子』、毛人(えみし)の妹が輪姦されて身ごもった胎児を川で自ら搔把する痛ましいエピソードが最も印象に残る。それまでの恋愛賛美のロマン主義にとどまらない少女漫画が生まれ始め、山岸が男・生殖への怨念を霊・狂気・超能力といった精神世界に求めたのに対し、より理性的でドライな方向で試みたのが同じララを舞台とする本作だったのでは。1980年前後のララのサブカル感と多彩さは男にとってみても宝庫であった。しかし倉多がこの方向を深追いすることはなく、80年代の経済状況を反映してか少女漫画はみるみる保守化自閉化してゆく。



グレゴワール・シャマユー/統治不能社会 権威主義的ネオリベラル主義の系譜学/明石書店2022・原著2018
コロナ禍に伴い各国の郵便事情が悪化し、書留を付けられないため、Discogsでせっかく売れた中古CDが行方不明になってしまう。日本郵便のクリックポストは無事故。でも↑映像のような乱暴な配達の方が資本主義としては健全なのでは。1970年代、労働者が豊かになったことやオイルショックなどで資本主義は危機を迎える。本書はそれに対し資本家階級が、先行して存在したナチスやシカゴ学派のように人を徹底的に道具とみなす新自由主義をどのように戦略化して勝利したかを淡々と実証的に記述する。
岸信介も安倍晋三も山口県(長州閥)。電通や民放キー曲が各界の縁故採用を受け入れ、政府と同等の立場で睨みを利かす(マインドコントロール)。わが国は新自由主義=無責任主義=馬鹿競争主義の最大の成功例と申せましょう。
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