1960年代にアイドル的な人気を博したポップグループのボーカリストであり、後年には寡作ながら前衛的な作風で後続ミュージシャンに大きな影響を与えたスコット・ウォーカー氏(1943年、米オハイオ州生まれ)が3月、76歳でがんのため亡くなった。
ユダヤ系で本名Noel Scott Engelといい、64年にジョン・マウス、ゲーリー・リーズとウォーカー・ブラザーズを結成、全員本名ではないウォーカー姓を名乗る。英国を拠点としてフィリップスと契約、2曲が英チャート1位になり、スコットの豊かなボーカルと端正なルックスは彼らが各国で(ビートルズに続く)アイドル的な人気を得るのに貢献。↓右のレコード群は当時わが国で発売されたもので、いまヤフオクを彼の名で検索してもCDよりレコードが圧倒的に多く、人気ぶりがしのばれる。
2007年に制作されたドキュメンタリー作品Scott Walker: 30 Century Man。私は2010年にアップリンクで見た。アイドル的な人気と、長い低迷、前衛的な作風でカルト的な存在となるまで、いったい彼はどんな心境で音楽に取り組んでいたのか。
60年代、「英国に渡って、空気が違うのを感じた。自分の中から音楽が湧き上がってくるような思いがした」とのことで、ソロ活動で多くカバーして彼のイメージを決定づけることになるジャック・ブレルも、プレイボーイクラブで知り合った女性から教えてもらったのだとか。70年代の低迷期、レコード会社をあちこち移り、ウォーカー・ブラザーズ再結成など試みるうち、彼は特徴的なボーカルを演劇のセリフや一種のサウンドのように用いるユニークな作風を編み出す。しかしそれはパンク/ヒップホップの時代とはいえ容易に受け入れられるものではなく、アルバム発表は10年単位。彼の影響を受けたマーク・アーモンド、ジュリアン・コープ、ジャーヴィス・コッカー(パルプ)、トム・ヨーク(レディオヘッド)らが成功し、そうした傾向を先導した代表的レーベル4ADに迎えられ発表した2006年のTHE DRIFT。試聴した何人かから「もはやこれは歌ではない」という声が聞こえたのを彼も気にして「私にとっては、あくまで歌なんだが…」と。
新しすぎる人はたいへんだ。「もしSCOTT 4が売れていたら?」という問いを受けて、「そうしたらTILTやTHE DRIFTはもっと早くできていたろう。でも時間を無駄にしてしまったのは自分の責任だ」とも。晩年も新たな音楽の創造に情熱を傾けたスコット・ウォーカー氏。ご冥福を祈ります—
iTunesPlaylis “79) Scott Walker” 117 minutes
1) The Walker Brothers / Make It Easy on Yourself (1965 – Take It Easy with the Walker Brothers)
2) The Walker Brothers / The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore (1966 – After the Lights Go Out: The Best of 1965-67)
邦題「太陽はもう輝かない」の原曲はフォー・シーズンズのポップな失恋ソング。ところがスコット・ウォーカーが歌い始めると、いきなりゴシックな叙事詩に装いを変える。深みのあるボーカルであり、同時にポップソングとしても英1位など各国でウォーカー・ブラザーズの成功に寄与、わが国では67年「ダンス天国」などで人気がピークに達した
3) The Walker Brothers / After the Lights Go Out (1966 – After the Lights Go Out: The Best of 1965-67)
4) The Walker Brothers / Archangel (1966 – After the Lights Go Out: The Best of 1965-67)
5) Mathilde (1967 - Scott)
6) Montague Terrace (in Blue) (1967 – Scott)
ソロ・デビュー作。自身の作3曲、ジャック・ブレルのカバー3曲、その他カバーから成り、メランコリックで荘重な作風を早くも確立。英3位
7) The Plague (1967 – Boy Child: 67-70)
8) Jackie (1968 – Scott 2)
9) Plastic Palace People (1968 - Scott 2)
10) Rosemary (1969 – Scott 3)
11) Big Louise (1969 – Scott 3)
12) 30 Century Man (1969 – Scott 3)
このアルバムで初めて、↑の3曲など大半が彼の自作となる。Big Louiseは後年マーク・アーモンドがカバーし、私にとってはそれがスコット・ウォーカーとの出会いであった。アルバム収録のブレル作If You Go Awayは日本のみでシングルカットされオリコン44位
13) The Seventh Seal (1969 – Scott 4)
14) The Old Man's Back Again (Dedicated to the Neo-Stalinist Regime) (1969 – Scott 4)
15) Duchess (1969 – Scott 4)
ベルイマン映画、ロシア革命など叙事要素が散りばめられたゴージャズな内容で、Pitchfork1960年代の200アルバムで45位に選出されるなど再評価されているが、リリース当時商業的にはまったく不発、70年代の苦闘につながる
16) Thanks for Chicago Mr. James (1970 - 'Til the Band Comes In)
17) The Walker Brothers / No Regrets (1975 – No Regrets)
18) The Walker Brothers / The Electrician (1978 – Nite Flights)
Pitchfork、1970年代の200曲で171位。デビッド・ボウイやウルトラヴォックスなどが斬新なサウンドを追求していたのと同時期ながら、それらとも異なる圧倒的な前衛・孤高ぶりを示す
19) Rawhide (1984 - Climate of Hunter)
20) Track Three (1984 - Climate of Hunter)
21) Farmer in the City (1995 – Tilt)
22) The Cockfighter (1995 – Tilt)
Pitchfork、1990年代の100アルバムで92位。11年ぶりながらミニマル・インダストリアル・ポストロック・ドローン、どれとも呼べる前衛的な作風を全面展開、レディオヘッドやパルプら彼の影響を受けた後続も成功し、闇の貴公子として尊敬を集め始めるものの、また次のアルバムまで11年…
23) Cossacks Are (2006 – The Drift)
24) Jesse (2006 – The Drift)
25) Epizootics! (2012 – Bish Bosch)
26) Scott Walker + Sun O))) / Fetish (2014 – Soused)