マガジンひとり

自分なりの記録

『プルートで朝食を』

2006-06-13 00:57:42 | 映画(映画館)

シネスイッチ銀座にて、ニール・ジョーダン監督。
カラフルなファッションや個性的なロックミュージックが生まれる一方、北アイルランドからの英国軍撤退と完全独立を求めるIRAの活動が過激化しつつあった1970年代。
アイルランド南部の町で神父と家政婦の間に生まれ、捨て子となったパトリック(キリアン・マーフィー)。
女装癖がある彼は、周囲に変わり者と見なされながらも美しく成長し、母親を探すためロンドンへと旅立つ…

女性出演者の怒りを買って『はねトび』の名物女装企画「ハッピーバレバレタイン」の2回目を行うきっかけともなったインパルス・板倉のセリフ「(女性ファッション誌を見て)世の中にはまだ(オレと)ヤッてねー女がいっぱいいるなー」
彼のいつもの女装“いたっちー”の立ち姿がガサツなのは、自分の中の女性性を否定したい気持ちの表れなんでしょうか。
ゲイと一口に言っても内実は千差万別で、性同一性障害と診断されるような、心のほとんどを女性性が占める人もいれば、三島由紀夫のように男性として男性に欲望しているようにうかがえる人もいる。
この映画のパトリックは、とにかくキラキラしたきれいなものが好きで、やがてそこに幻の美しい母に自分を同化させたい気持ちが混じっていく。
空想することを通じてなんとか現実と折り合いをつけていく、その空想と爆弾テロなどの激しい暴力が交錯するので、ちょっとストーリーが把握しづらいが、映画館で見られたことを感謝したくなる秀作で、特に音楽が素晴らしい。
ソフィア・コッポラ監督のような、単にセンスの良い贅沢な選曲というにとどまらず、監督が心の底から共感している、脚本・映像ときちんと融合した選曲なの。
ポップ・ミュージックの中でも全米1位・全英1位のように大ヒットする主流の曲に、50年代のプレスリーあたりから「過剰さ」「奇矯さ」そして「そんな独特な個性をありのままに表現する」流れが生まれて、それがこの映画の背景の60~70年代に花開いたんですね。
終盤の、実の父親の神父との覗き部屋での邂逅のシーン、その後に続く母親の家を訪ねていくシーンが素晴らしく、その近辺で使われているヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』は真の名盤なのだと思い知った。
そしてプログラムを買い求めて初めて知ったのだが、身を売ろうと街に立ったパトリックを拾い、彼を殺そうとする変態タクシー運転手を演じていたのはブライアン・フェリーだった!!
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『ニューヨーク・ドール』

2006-06-06 18:57:54 | 映画(映画館)
シネセゾン渋谷にて、グレッグ・ホワイトリー監督。
1973年、商業化の進むロックシーンに、ケバケバしい化粧とド派手な衣裳に身を包んで突如現れたニューヨーク・ドールズ。
ドラッグと内輪もめの末、わずか2作のアルバムのみで解散してしまったが、後続のパンクなどのミュージシャンたちに大きな影響を与えた。
ヴォーカルのデイヴィッド・ジョハンセンやギターのジョニー・サンダースは解散後も音楽活動を続けたが、ベースのアーサー“キラー”ケインはモルモン教に入信したことをきっかけに荒れた生活を離れ、家系を記録する図書館のような場所で堅実に働くようになった。
そして2004年、既に元メンバーのうち3人は亡くなっていたが、確執のあったジョハンセンとケインを迎えてロックフェスで再結成ステージを行う話が持ち上がる…

ネタバレしてもほとんど感動は損なわれないと思うので書いてしまうけれど、彼らは伝説が嘘ではなかったことを証明する見事なステージを見せ、その3週間ほど後にはケインの白血病が判明し、彼は急死してしまう。
『ヨコハマメリー』もそうだったけど、一人の人間の実人生のドキュメンタリーの重さは、点数や★の数では語れるものではない。
年末だけということで、お許しいただきたい。
このチラシ画像の実直そうなネクタイの紳士が、派手で荒んだロックンロール人生を送っていたこと、そして極端な2つの生き方が一人の人間の中でごく自然に共存していることに驚かされる。
なにか米英の白人って自己主張が激しいと思いがちじゃないですか。
しかもモルモン教ですよ、うさぎ先生の指摘した「キリスト教特有の選民意識」とか、偏見しか持っていなかったんだけど、宗教心の根本には「へりくだる」気持ちがあるということを理解させられましたね。
若い時期に激しい自己表現を行っていたことが、そのまま謙虚で静かな生活につながっていく、自然に生き、自然に死ぬという感覚。
再結成ライブを招くロックフェスの主催は元ザ・スミスのモリッシーで、彼も若い頃からゲイをカミングアウトして生きてきたが、とてもカッコいい年の取り方をしている。
無理のない自然体って大切ですね。
曲も、若い頃はさっぱり理解できなかったけど、必須な曲が少なくとも4~5曲はある。
ロック好きの方はぜひ!

ところで予告、ドールつながりってわけでもないんですが、明日「パースペクティブなっちゃん剛毛」というフィギュアを公開しますのでお楽しみに。
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『嫌われ松子の一生』

2006-06-02 21:37:52 | 映画(映画館)

渋谷・シネクイントにて、中島哲也監督。
東京へ出てミュージシャンになる夢も見失いかけていた18歳の笙(瑛太)の前に、突然父(香川照之)が、存在すら知らなかった伯母・松子(中谷美紀)の遺骨を持って現れる。
松子は中学教師をクビになったうえ男運が悪く風俗嬢にまで身を持ち崩し、ついには殺人まで犯して家族の縁を切られていたのだという。
笙はゴミに埋もれた松子の古いアパートを掃除するうちに、松子の遺品や松子の死を知って訪ねてきた古い知人から、松子の風変わりな激しい人生を知らされることになる…

★★★★★だ!
いや単なる傑作というにとどまらず、下妻物語も超え、人生に大きな足跡を残すような映画ですね。
中村うさぎに桐野夏生に佐野眞一に見せたい!
ジャン・ピエール・ジュネにラース・フォン・トリアーにミシェル・ゴンドリーに見せたい!
ジミー・ペイジ&ロバート・プラントに見せたい!
ブッシュにビン・ラディンにズミ首相に、世界中の人々に見てもらいたい…そんな、生きていることを許してくれて、前へ歩いてゆく力を与えてくれるような作品。
体重別なら軽量級だとしても、この監督が世界チャンピオンであることは間違いない。
北野武、黒沢清、三池崇史、そうした最近の邦画の中で目立つ才能と比べても、突出したスーパー天才である。
昭和を時代背景として、ファンタジーと呼べるほど細部をこってりと作り込んだ邦画といえば、すぐに浮かぶのが『ALWAYS・三丁目の夕日』という大ヒット作で、見ていないのに悪口を書くのは、しかもこんな素敵な作品を見た後ではためらわれるのだが言わせてもらうと、教師をクビになって家を出た松子が同棲する相手の男(宮藤官九郎)は作家志望で、酒を呑んでは松子に暴力をふるい、ついには松子の目の前で電車に飛び込み自殺する。
ALWAYSの主人公も作家志望だがうわべは優しげな吉岡秀隆。
ところが、クドカン自身自分にそうした一面があることを認めてもいる大したハマり役なのだが、現実の上ではクドカンはよきパパで、内田有紀に暴力をふるって離婚されてしまったのは吉岡秀隆のほう。
ここに、人間の深奥・暗部を真摯に見つめない、臭いものにはフタをして体裁を取繕う、そして閉ざされた国内の市場だけで金儲けしようという日本映画の病巣が端的に表れていないだろうか?
そして、松子と厳格な父親(柄本明)、松子と病弱な妹(市川実日子)、松子と松子を窮地におとしいれる教え子(伊勢谷友介)など繰り返し描かれるのが、過剰な思いがすれ違うエピソード。
ここに人間と人間がコミュニケーションする、心が通い合うことがいかに困難かという主題が隠れているように思う。
出演もしている荒川良々いわく「事件!事件!これ見て、マジ、ビビらないヤツは、これもんの、これもんで、これもんよ!」
ビビるとゆーか、これを見ても胸にこみ上げてくるものがない人、ちょいとヤバイかも。
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