先日の記事で往年のミニコミ誌『突然変異』を振り返った中で、リアルタイムで読んで印象的だった「ソータイの幸福事件」という3号に載った記事=筆者を浄土真宗系カルトに勧誘しようとした、洗脳されているとおぼしき若者を、質問・反論で責め立てて逆上させるという=が、諧謔というよりシニカルで冷笑的な感じが昨今のネット世論と重なる気がして、その記事は白石一平なる人物によるのだが、同誌を立ち上げた中心人物であり、ロリコンや「鬼畜系」なる芸風の先駆者となった編集者の故・青山正明氏が「快楽主義者」を標榜していたのは、そのような冷笑的態度から、頭が良すぎて他人や世間がすべて下らなく見えてしまうので、おのれの快楽のみを追求するようになってしまったのではないかと思いつき、同氏の業績を再度、ネットを経た視点で検討してみようと。
同氏がいくつかの雑誌で執筆した「フレシュペーパー(肉新聞)」なる記事を中心に集大成した『危ない1号・4巻 青山正明全仕事』を入手し、巻末に収められている、彼が愛好した音源リストを漁りながら記事を吟味してみると、とうてい先のような単純化を許さない、ひとかどの人物だったことが分かる。
彼はおそろしく興味の範囲が広い。
そして、中3でデンマークのハードコア・ポルノの存在を知り、どのように税関の目をごまかして個人輸入するか悪戦苦闘したのに始まり、覗きくらいの軽犯罪は朝飯前、やがて非合法薬物や小児買春を目的にたびたび海外を訪れるに至るまで、すべて自ら体験しなければ気が済まない行動力。
ネット世代とは明らかに異質である。
音源リストでは、興味の対象が普通のロック⇒プログレ/ユーロ・ロック/英トラッド⇒ワールド・ミュージック⇒テクノ/トランスと変遷しているが、ワールド期にもメジャーなロックやインダストリアル系のチェックに怠りないし、それ以前には英トラッドの系統をさかのぼって15世紀の古楽まで漁ったりしている(下記リスト10の作曲家)。
今のように、検索して瞬時にダウンロード購入できたりしない、情報が乏しくて、消費者にとって著しく不便だった時代に。
晩年の肉新聞では、大脳生理学の権威にインタビューして、自らの快楽主義や薬物耽溺と結び付けながら、人類の謎に迫ろうとする試みも。
彼は慶大法学部出とのことだが、薬物や変態性欲についても、反社会的というより、一種の貴族趣味のように、ルネッサンス以来の人間解放の一環として、意思的・能動的に本気で遊び、眼の難病に襲われたということもあろうが、41歳で死を選んだことも、できることはすべてやったという、逃避よりは達成感もある死ではなかったろうか。
当初考えた、青山氏が東浩紀・宇野常寛・佐々木俊尚・古市憲寿といった、人権や民主主義に対して懐疑的・冷笑的な若手論客の先駆けだったのではないかという見立ては間違っていた。
彼らは吉本隆明・立花隆・浅田彰・中沢新一といった旧世代のマスコミ芸者の劣化版に過ぎず、呼ばれるお座敷にネットやソーシャル・メディアが加わったことで、より無責任で冷笑的な考え方が身についていったのだろうが、青山正明氏は冷笑から快楽主義へ走ったのではなく、知を統べんと欲し、思想に実践が伴っている、活字世代の最終ランナーだったといえよう。
iTunes Playlist "青山正明プレイリスト" 88 minutes
1) Streets of London / Ralph McTell (1969 - Spiral Staircase)
2) Is It My Body / Alice Cooper (1971 - Love It to Death)
3) Together Alone / Melanie (1972 - Stoneground Words)
4) Cum On Feel the Noize / Slade (1973 - Sladest)
5) Songs of Quendi: Night Theme/Ring Theme/Wam Pum Song/Ring Chorus/Nenya/Path of the Ancient Ones/Land of the Sun / Sally Oldfield (1978 - Water Bearer)
6) Who Was in My Room Last Night? / Butthole Surfers (1993 - Independent Worm Saloon)
7) El Tor / Città Frontale (1975 - El Tor)
8) Sunset and Evening Star / Jonesy (1973 - Keeping Up...)
9) Queen of Scots / Amazing Blondel (1970 - Evensong)
10) Dufay: Isorhythmic Motets - Vasilissa ergo gaude / Huelgas-Ensemble (2000 - Dufay: O gemma, lux)
11) Saltarello / Dead Can Dance (1990 - Aion)
12) Tchengo / Loop Guru (1994 - Duniya: The Intrinsic Passion of Mysterious Joy)
13) The Number Readers / Subsurfing (1995 - Frozen Ants)
14) Odyssey to Anyoona / Jam & Spoon (1993 - Tripomatic Fairytales 2001)
15) Polyphase / Children of the Bong (1995 - Sirius Sounds)
16) Fun for Me / Moloko (1995 - Do You Like My Tight Sweater?)
圧巻の音源リストなのだが、ワールド・ミュージックについてはカセットが多く、文字さえ読めないものもあることからバッサリ割愛せざるをえなかったとのこと
危ない1号〈第4巻〉特集 青山正明全仕事 | |
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