安倍・産経・大阪市長・全国のネトウヨども、従軍慰安婦をめぐる「歴史戦」に惨敗。国内では無敵だけどなww
シリコンバレーとも近く、米国の経済を牽引するような発展を遂げている西海岸のサンフランシスコ市が「慰安婦像」の受け入れを決めたことに反発し、長く姉妹都市の関係にあった大阪市の吉村洋文市長(42・維新・1期目)が関係を解消すると表明。朝日新聞の「誤報」のみを盾に、慰安婦の存在じたいがでっち上げだとする国内保守層の空気を読んだパフォーマンスも、海外では「人権を軽視する、女性差別的な国」との印象を持たれ、万博招致はもちろん政治的にも経済的にも大きな失点になるだろう。
折から、男女平等の度合いを数値化したランキングで、わが国は過去最低の111位(144ヵ国中)であるとか、スイスのシンクタンクが調査した「プロフェッショナル人材にとって魅力的な(働きたい)国」で、わが国はアジア11ヵ国中最下位であるとか、おいおい、どうしちゃったんだニッポンっていう—
時計回りで【右上】自民党の竹下亘総務会長が、宮中晩餐会の国賓に同性パートナーが出席することについて「私は反対だ。日本国の伝統には合わない」と発言し、その後「言わなきゃよかった」と反省の弁【右下】前地方創生相の山本幸三・自民党衆院議員(福岡10区)が、北九州市で23日に開かれた三原朝彦議員(自民・福岡9区)の「政経セミナー」の挨拶で、三原氏のアフリカ各国との交流や支援活動に触れ「何であんな黒いのが好きなのか」と発言【左】22日、乳児連れで熊本市議会本会議場に入り、議会事務局職員から注意を受ける緒方夕佳市議
どうしちゃったんだ、じゃなくて、昔からこんな風ですよね、わが国は。80年代にも、職場に赤ちゃんを連れてくるのは是か非か「アグネス論争」ってのがあって、林真理子なんかは企業・男社会の側に立って「いい加減にしてよアグネス」とか書いてたよな。
竹下の発言だって「言わなきゃよかった」ってことは、でも心では思い続けますって言ってるのと同じで、大多数の日本人もそう思い、言動を改めないから、マイノリティの人びとはいつまでも肩身が狭い。それこそが差別なんだ。
今回の読書メーターで取り上げた『だから、居場所が欲しかった。』では、タイ・バンコクの日本企業向けコールセンターで働く日本人のさまざまな事情を取材。日本に居づらくなって、タイ語や英語ができなくても働けるそこへ流れ着いた感じの人が多い。LGBTの場合、タイの街では男が手をつないでいたり、女優として活躍していたりで、一見開放的ながら、やはり差別は根強く、政府の職場や教師・弁護士などでは排除され、隠しとおす必要もあるのだとか。それでも市井の普通の人が堂々としていることで、LGBTの権利を守る「差別撤廃法」が施行されるとか、前述の「働きたい国」でタイはアジア11ヵ国中5位だとか、現実が変ってゆく面もあるだろう。
普通の人が変らなければ、世の中は変らない。『ブラック企業』から『ブラック企業2』まで、『下流老人』から『続・下流老人』までの間に、状況は少しでもよくなったのか、わが国はこのまま衰退してゆくのか—
山上たつひこ/大阪弁の犬/フリースタイル・2017
「阿久津氏がぼくの原稿を見て笑い転げた顔が忘れられない。こまわり君が西城君と掛け合い漫才のようなやり取りをしたあと、禿の親爺、そして狸に変身するのである」。『がきデカ』の瞬間的な変身・変装は鴨川つばめ・江口寿史・魔夜峰央ら後続に模倣され漫画黄金時代のスタンダードとなった。さかのぼる『喜劇新思想大系』の与一というキャラはこまわり君の原型であり、メディア志向の強い日本のネトウヨの原型でもある。一貫した自伝というよりエッセイ集のような構成ながら、一世風靡した粋人による時代の貴重な証言として興味は尽きない
今野晴貴/ブラック企業2 「虐待型管理」の真相/文春新書・2015
ユニクロ柳井「グローバル経済というのはGlow or Die、成長かさもなくば死か。非常にエキサイティングな時代だ」。そりゃお前にはな。90年代に高卒向け求人が激減、しかし大学のキャリア教育は主体的にデータを集めて企業を選ぶようなものでなく、学生たちはリクナビやマイナビなどで企業の宣伝文句やイメージを鵜呑みにして就活。過酷労働を禁じる労働法はあっても、実地にそれを行使するようなマインドが育たない。いけにえの羊が量産され、ブラック企業の手口も巧妙化、若者を使いつぶして日本全体を負の連鎖へ巻き込む(◞‸◟ )
岩波明/発達障害/文春新書・2017
発達障害という総称に含まれるADHD・ASD(の一部を成すアスペルガー)の概略についてさまざまな症例を交え分りやすく解説。門外漢が偏見を捨て、適切に理解するには良い本なのだろう。が、なにしろ並行して読んでいたのが『こころの医者のフィールド・ノート』であるため、そこで描かれる地方村落の、牛の歩みのように遅いが人情味ある篤実な啓蒙に対し、とおりいっぺんな症例見本帳のように感じられてしまい、私にとって最低限の入門書の域を出なかった
木佐貫真照/実録シャブ屋/洋泉社・2007
「私達の仕事はカメラさんや照明、スタッフが大勢ベッドを囲んで見ている中で、素裸になってお尻の穴まで見せて、好きでもない男優たちと本番するのよ。お金のためとはいえ普通の精神状態では出来っこない」と有名AV女優の証言が本書に。日本軍も覚醒剤(ヒロポン/シャブ)を兵士に支給し、戦中戦後と民間に広まったが一転、取り締まりの対象に。需要と供給は闇に潜り、著者のようなヤクザ者が仕切る。著者はシャブの快楽をコントロールできるツワモノだが、周囲には身を滅ぼす者も多く悲喜こもごも。世間知らずの私にはいろいろ勉強になった
河村小百合/中央銀行は持ちこたえられるか—忍び寄る「経済敗戦」の足音/集英社新書・2016
私事ですが、うつ病が快癒の方向なので、いずれ老人性などで悪化するのに備え薬を減らそうと。中央銀行の政策もこれと似る。FRBは金融緩和の出口政策へ向かい、ECBも模索。いざ景気悪化の際に利下げなど打てる手を増やすため。日銀はどうにもならない。ジャブジャブ国債を買い増し、GPIFと共に株も買って経済の官製化が進む。審議委員も全員がアホ政権の任命に。まるで旧ソ連。本書は敗戦直後の預金封鎖・財産税にかなりのページを割き警鐘を鳴らすが、いまの劣化しきった政府にはそれも無理で米中両国の下請けみたいになるのがオチじゃろ
毛受敏浩/限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択/朝日新書・2017
「日本で困ったこととして、日本人と結婚したフィリピン人女性は、子どものお弁当作りと答えている。何を入れればよいのか分らない。フィリピン人は本来おおらかだが、日本では他人を気にし、比べるので、子どもが冷やかされたりいじめられたりしないか神経を使う」。移民政策より何より、わが国が外国人から選ばれ、住んでみたいと思われるような国かどうか。『ルポ ニッポン絶望工場』『新・観光立国論』などの併読をお勧め
水谷竹秀/だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人/集英社・2017
賃金・物価の安いバンコクで、タイ語ができなくとも従事できる日本企業向けコールセンターで働く日本人たちの様々な事情。みなさんの感想を拝見すると「女が男を買う」ことへの抵抗が強いのかな、逆は当たり前という状態もそろそろ改めないといけない気が。著者は日本の多数派の既定路線=新卒一括採用・年功序列=からはみ出しフィリピンを本拠とする身であり、それぞれの事情を聞き出し、受けとめる人徳と行動力に敬服。最後に置かれたLGBT周辺のエピソードに読み応えがあり、すがすがしい読後感。逆に浮き彫りになる日本の閉塞感マジえぐい
中沢正夫/こころの医者のフィールド・ノート/ちくま文庫・1996(原著1982)
「病とか健康とかいうものがいかに生活と深く結びついているか。生活とは経済的な面も、社会的な面も、心理的な面も含んでいる」。苦悩と混乱を生むもつれた心の糸を、ほぐし、整理し、心のしかるべきところへ位置付けることができた時、病は癒えるのだという。閉鎖病棟へ体験入院した医学生の逸話が話題のようだが、全エピソードが珠玉で、とくに農村部で彼が経験したことの数々が心に染みる。因習の残る地で、疎まれる患者、悩む家族、光を当てようと奔走する保健婦たち。こうした無名の人びとが歴史を動かし、文明を前進させているのだと思う
ライアン・エイヴェント/デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか—労働力余剰と人類の富/東洋経済新報社・2017
産業革命や大恐慌からAIや移民問題まで、過度な楽観にも悲観にもおちいらず、的確な視点で人間社会の課題を見定めた好著。「一人の人間が複数の分野の専門家になるのは難しくなり、複雑な問題を扱うためには優秀な各専門家がお互い身近にいる必要がある」ことから大都市や大学・企業といったソーシャル・キャピタルの優位性が高まり、経済の脱モノ化もまた富の偏在と、生産性を上げようのない職種で人手不足でも賃金が上がらない事態を助長。政治・経済とも今後激動の時代を迎えるが、文明は歩みを止めず、人類は問題を解決するだろうと説く
矢部宏治/知ってはいけない 隠された日本支配の構造/講談社現代新書・2017
「書類は廃棄した」の佐川某が国税庁長官に。役人は保身の動物。不都合があっても管理責任などは負わない。本書が暴いた、いや暴いたというか飛行禁止空域のことや日米合同委員会のこと、国のトップは事実上「米軍+役人」で憲法の人権や民主主義は空文化していること、誰もがおおかたそんなところだろうと察している。が、責任を負うのは我々だ。トランプ政権なんてのは日本との外交や安全保障を担う高官も長く決められなかったくらいで、責任のないところに実権はない。憲法に命を吹き込み、わが国を名誉ある独立国とするのは一人一人の国民である
シリコンバレーとも近く、米国の経済を牽引するような発展を遂げている西海岸のサンフランシスコ市が「慰安婦像」の受け入れを決めたことに反発し、長く姉妹都市の関係にあった大阪市の吉村洋文市長(42・維新・1期目)が関係を解消すると表明。朝日新聞の「誤報」のみを盾に、慰安婦の存在じたいがでっち上げだとする国内保守層の空気を読んだパフォーマンスも、海外では「人権を軽視する、女性差別的な国」との印象を持たれ、万博招致はもちろん政治的にも経済的にも大きな失点になるだろう。
折から、男女平等の度合いを数値化したランキングで、わが国は過去最低の111位(144ヵ国中)であるとか、スイスのシンクタンクが調査した「プロフェッショナル人材にとって魅力的な(働きたい)国」で、わが国はアジア11ヵ国中最下位であるとか、おいおい、どうしちゃったんだニッポンっていう—
時計回りで【右上】自民党の竹下亘総務会長が、宮中晩餐会の国賓に同性パートナーが出席することについて「私は反対だ。日本国の伝統には合わない」と発言し、その後「言わなきゃよかった」と反省の弁【右下】前地方創生相の山本幸三・自民党衆院議員(福岡10区)が、北九州市で23日に開かれた三原朝彦議員(自民・福岡9区)の「政経セミナー」の挨拶で、三原氏のアフリカ各国との交流や支援活動に触れ「何であんな黒いのが好きなのか」と発言【左】22日、乳児連れで熊本市議会本会議場に入り、議会事務局職員から注意を受ける緒方夕佳市議
どうしちゃったんだ、じゃなくて、昔からこんな風ですよね、わが国は。80年代にも、職場に赤ちゃんを連れてくるのは是か非か「アグネス論争」ってのがあって、林真理子なんかは企業・男社会の側に立って「いい加減にしてよアグネス」とか書いてたよな。
竹下の発言だって「言わなきゃよかった」ってことは、でも心では思い続けますって言ってるのと同じで、大多数の日本人もそう思い、言動を改めないから、マイノリティの人びとはいつまでも肩身が狭い。それこそが差別なんだ。
今回の読書メーターで取り上げた『だから、居場所が欲しかった。』では、タイ・バンコクの日本企業向けコールセンターで働く日本人のさまざまな事情を取材。日本に居づらくなって、タイ語や英語ができなくても働けるそこへ流れ着いた感じの人が多い。LGBTの場合、タイの街では男が手をつないでいたり、女優として活躍していたりで、一見開放的ながら、やはり差別は根強く、政府の職場や教師・弁護士などでは排除され、隠しとおす必要もあるのだとか。それでも市井の普通の人が堂々としていることで、LGBTの権利を守る「差別撤廃法」が施行されるとか、前述の「働きたい国」でタイはアジア11ヵ国中5位だとか、現実が変ってゆく面もあるだろう。
普通の人が変らなければ、世の中は変らない。『ブラック企業』から『ブラック企業2』まで、『下流老人』から『続・下流老人』までの間に、状況は少しでもよくなったのか、わが国はこのまま衰退してゆくのか—
大阪弁の犬 | |
山上 たつひこ | |
フリースタイル |
山上たつひこ/大阪弁の犬/フリースタイル・2017
「阿久津氏がぼくの原稿を見て笑い転げた顔が忘れられない。こまわり君が西城君と掛け合い漫才のようなやり取りをしたあと、禿の親爺、そして狸に変身するのである」。『がきデカ』の瞬間的な変身・変装は鴨川つばめ・江口寿史・魔夜峰央ら後続に模倣され漫画黄金時代のスタンダードとなった。さかのぼる『喜劇新思想大系』の与一というキャラはこまわり君の原型であり、メディア志向の強い日本のネトウヨの原型でもある。一貫した自伝というよりエッセイ集のような構成ながら、一世風靡した粋人による時代の貴重な証言として興味は尽きない
ブラック企業2 「虐待型管理」の真相 (文春新書) | |
今野 晴貴 | |
文藝春秋 |
今野晴貴/ブラック企業2 「虐待型管理」の真相/文春新書・2015
ユニクロ柳井「グローバル経済というのはGlow or Die、成長かさもなくば死か。非常にエキサイティングな時代だ」。そりゃお前にはな。90年代に高卒向け求人が激減、しかし大学のキャリア教育は主体的にデータを集めて企業を選ぶようなものでなく、学生たちはリクナビやマイナビなどで企業の宣伝文句やイメージを鵜呑みにして就活。過酷労働を禁じる労働法はあっても、実地にそれを行使するようなマインドが育たない。いけにえの羊が量産され、ブラック企業の手口も巧妙化、若者を使いつぶして日本全体を負の連鎖へ巻き込む(◞‸◟ )
発達障害 (文春新書) | |
岩波 明 | |
文藝春秋 |
岩波明/発達障害/文春新書・2017
発達障害という総称に含まれるADHD・ASD(の一部を成すアスペルガー)の概略についてさまざまな症例を交え分りやすく解説。門外漢が偏見を捨て、適切に理解するには良い本なのだろう。が、なにしろ並行して読んでいたのが『こころの医者のフィールド・ノート』であるため、そこで描かれる地方村落の、牛の歩みのように遅いが人情味ある篤実な啓蒙に対し、とおりいっぺんな症例見本帳のように感じられてしまい、私にとって最低限の入門書の域を出なかった
実録シャブ屋 | |
木佐貫 真照 | |
洋泉社 |
木佐貫真照/実録シャブ屋/洋泉社・2007
「私達の仕事はカメラさんや照明、スタッフが大勢ベッドを囲んで見ている中で、素裸になってお尻の穴まで見せて、好きでもない男優たちと本番するのよ。お金のためとはいえ普通の精神状態では出来っこない」と有名AV女優の証言が本書に。日本軍も覚醒剤(ヒロポン/シャブ)を兵士に支給し、戦中戦後と民間に広まったが一転、取り締まりの対象に。需要と供給は闇に潜り、著者のようなヤクザ者が仕切る。著者はシャブの快楽をコントロールできるツワモノだが、周囲には身を滅ぼす者も多く悲喜こもごも。世間知らずの私にはいろいろ勉強になった
中央銀行は持ちこたえられるか ──忍び寄る「経済敗戦」の足音 (集英社新書) | |
河村 小百合 | |
集英社 |
河村小百合/中央銀行は持ちこたえられるか—忍び寄る「経済敗戦」の足音/集英社新書・2016
私事ですが、うつ病が快癒の方向なので、いずれ老人性などで悪化するのに備え薬を減らそうと。中央銀行の政策もこれと似る。FRBは金融緩和の出口政策へ向かい、ECBも模索。いざ景気悪化の際に利下げなど打てる手を増やすため。日銀はどうにもならない。ジャブジャブ国債を買い増し、GPIFと共に株も買って経済の官製化が進む。審議委員も全員がアホ政権の任命に。まるで旧ソ連。本書は敗戦直後の預金封鎖・財産税にかなりのページを割き警鐘を鳴らすが、いまの劣化しきった政府にはそれも無理で米中両国の下請けみたいになるのがオチじゃろ
限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択 (朝日新書) | |
毛受敏浩 | |
朝日新聞出版 |
毛受敏浩/限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択/朝日新書・2017
「日本で困ったこととして、日本人と結婚したフィリピン人女性は、子どものお弁当作りと答えている。何を入れればよいのか分らない。フィリピン人は本来おおらかだが、日本では他人を気にし、比べるので、子どもが冷やかされたりいじめられたりしないか神経を使う」。移民政策より何より、わが国が外国人から選ばれ、住んでみたいと思われるような国かどうか。『ルポ ニッポン絶望工場』『新・観光立国論』などの併読をお勧め
だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人 | |
水谷 竹秀 | |
集英社 |
水谷竹秀/だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人/集英社・2017
賃金・物価の安いバンコクで、タイ語ができなくとも従事できる日本企業向けコールセンターで働く日本人たちの様々な事情。みなさんの感想を拝見すると「女が男を買う」ことへの抵抗が強いのかな、逆は当たり前という状態もそろそろ改めないといけない気が。著者は日本の多数派の既定路線=新卒一括採用・年功序列=からはみ出しフィリピンを本拠とする身であり、それぞれの事情を聞き出し、受けとめる人徳と行動力に敬服。最後に置かれたLGBT周辺のエピソードに読み応えがあり、すがすがしい読後感。逆に浮き彫りになる日本の閉塞感マジえぐい
こころの医者のフィールド・ノート (ちくま文庫) | |
中沢 正夫 | |
筑摩書房 |
中沢正夫/こころの医者のフィールド・ノート/ちくま文庫・1996(原著1982)
「病とか健康とかいうものがいかに生活と深く結びついているか。生活とは経済的な面も、社会的な面も、心理的な面も含んでいる」。苦悩と混乱を生むもつれた心の糸を、ほぐし、整理し、心のしかるべきところへ位置付けることができた時、病は癒えるのだという。閉鎖病棟へ体験入院した医学生の逸話が話題のようだが、全エピソードが珠玉で、とくに農村部で彼が経験したことの数々が心に染みる。因習の残る地で、疎まれる患者、悩む家族、光を当てようと奔走する保健婦たち。こうした無名の人びとが歴史を動かし、文明を前進させているのだと思う
デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか | |
Ryan Avent,月谷 真紀 | |
東洋経済新報社 |
ライアン・エイヴェント/デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか—労働力余剰と人類の富/東洋経済新報社・2017
産業革命や大恐慌からAIや移民問題まで、過度な楽観にも悲観にもおちいらず、的確な視点で人間社会の課題を見定めた好著。「一人の人間が複数の分野の専門家になるのは難しくなり、複雑な問題を扱うためには優秀な各専門家がお互い身近にいる必要がある」ことから大都市や大学・企業といったソーシャル・キャピタルの優位性が高まり、経済の脱モノ化もまた富の偏在と、生産性を上げようのない職種で人手不足でも賃金が上がらない事態を助長。政治・経済とも今後激動の時代を迎えるが、文明は歩みを止めず、人類は問題を解決するだろうと説く
知ってはいけない 隠された日本支配の構造 (講談社現代新書) | |
矢部 宏治 | |
講談社 |
矢部宏治/知ってはいけない 隠された日本支配の構造/講談社現代新書・2017
「書類は廃棄した」の佐川某が国税庁長官に。役人は保身の動物。不都合があっても管理責任などは負わない。本書が暴いた、いや暴いたというか飛行禁止空域のことや日米合同委員会のこと、国のトップは事実上「米軍+役人」で憲法の人権や民主主義は空文化していること、誰もがおおかたそんなところだろうと察している。が、責任を負うのは我々だ。トランプ政権なんてのは日本との外交や安全保障を担う高官も長く決められなかったくらいで、責任のないところに実権はない。憲法に命を吹き込み、わが国を名誉ある独立国とするのは一人一人の国民である